国立工芸館の館長に聞く。北陸の工芸を巡る旅の「予習」。

2020.10.15

No. 04

輪島には漆器に親しむチャンスが、そこかしこにあります。

国立工芸館の前で唐澤さんと撮影をする際の一幕。

坂本:北陸はいい意味で工芸と美術、民芸と工芸の線引きがあいまいで、そのあいまいさの上で、文化が育っているという話がありました。

 

ではそろそろ、その北陸の産地について聞かせてもらえればと思います。

 

唐澤さんの著書『窯別ガイド 日本のやきもの 瀬戸』の巻末には、「見る」「買う」「つくる」といったジャンル分けで、瀬戸焼を楽しめる場所が紹介されていました。

 

では、北陸で工芸を「見る」「買う」「つくる」と考えた時に、小旅行の行き先として、真っ先に思い浮かぶ産地は、どこになるでしょうか?

 

言い換えれば、最初に訪れるべき、北陸の工芸の産地と言えば、どこになるでしょうか? 

 

唐澤:「見る」「買う」「つくる」がいつでもできるという意味において、あるいは素材、技法に特化して見て回れるという意味において、金沢は極めて工芸が充実した土地だと思います。

 

金沢は素材とか技法に特化した博物館とか、美術館があって、常時、工芸を楽しめます。

 

いしかわ生活工芸ミュージアム(石川県立伝統産業工芸館)。国立工芸館の近所で、伝統工芸の体験もできる。写真提供:石川県観光連盟。

坂本:さらに国立工芸館まで移転してくるわけですし、一般的に言えば、日本を見渡してもこれ以上ないくらいの工芸巡りの旅先だと思います。

 

同日、東京から来た他のメディアも取材に入っていた。

ただ、これで「はい、そうですか」と終わるわけにはいきません。

 

東京のメディアなど、日本全国に向けて情報を発信するメディア、あるいは他の地域を取り上げるメディアでは、「金沢に行きましょう」と言えば、成立する話です。

 

ただ、われわれは北陸3県のメディアです。工芸の産地=金沢は、北陸の人であれば、すでに誰もが知っていますし、何度も足を運んでいるわけです。解答として、それでは許されません(笑)

 

唐澤:そうですよね(笑)

 

坂本:しかも金沢に関しては、国立工芸館がオープンすれば、自然とあらためて工芸を楽しみに来る人は多いと思います。

 

では、その国立工芸館を見て、金沢に来て、次に1泊2日程度の小旅行で出掛けたい産地と言えば、どこでしょうか? 

 

唐澤:その文脈で言うと、輪島などは最適ではないでしょうか? 

 

輪島は小学生が学校の授業で沈金をして、その授業を地元の作家さん、職人さんが教えに来るくらい、工芸の文化が豊かな土地です。

 

知名度で言えば、金沢と同じくらい高いとは思いますが。

 

坂本:確かに地理的に見れば、能登半島の先端に近いので、富山からも、福井からも、石川の人たちからしても、小旅行気分を楽しめる距離でもありますよね。

 

唐澤:さらに輪島には、漆器を「見る」「買う」「つくる」場所が、豊富にそろっています。

 

坂本:例えば何があるのでしょうか?

 

唐澤:「見る」という部分では、石川県輪島漆芸美術館などがあります。

 

石川県輪島漆芸美術館。写真提供:石川県観光連盟。

坂本:今調べてみましたが、世界で唯一の漆芸専門美術館と書かれています。他にもまちの中心部に輪島塗会館10などがありますね。

 

漆塗りの体験や制作見学の機会を提供している民間の工房も充実している様子です。

 

そうした工房では、実用品としての工芸品を買い求められるはずですから、旅のお土産選びも事欠きません。

 

さらにそうした工房の中には、本物とか、正当とか、伝承とかを正面に打ち出した、クラシックな工芸とはまた違う切り口で輪島塗を楽しませてくれる、プロダクトデザイナーやブランディングの上手な仕掛け人もきっと居るはずです。

 

HOKUROKUでは、伝統の継承や正当性を前面に打ち出した工芸だけでなく、今までとは異なる新しさや面白さを玄関口に工芸を「見させてくれる」「買わせてくれる」「つくらせてくれる」人たちを訪ね歩きたいとも、今の段階でなんとなく考えています。

 

それに普通に考えて輪島は、もともと観光地でもあります。宿泊施設も豊富にあるという面では、小旅行先には適しているのかもしれませんね。

 

輪島屋善仁 塗師の家。制作見学ができる。写真提供:石川県観光連盟。

ちなみに素朴な疑問なのですが、唐澤さんは実際に北陸の工芸品を何か使っていますか? 北陸限定で。

 

唐澤:それこそ、輪島のおわんを使っています。

 

ここでお昼ご飯にみそ汁を飲む時には、作家さんから買ったおわんを使っています。

 

坂本:よく、工芸品は買うのですか?

 

唐澤:買います。

 

坂本:やはり仕事がら、普段から触れていたいからでしょうか?

 

唐澤:もちろんそれもありますが、楽しいからです。工芸品は自分で育てる楽しみがあります。

 

使っていくと、つやが変わって、しっとりとした感じが生まれてきます。

 

それを越えると、塗り直しをしなければいけませんが、買う時には塗り直しもできるか、聞いてから買っています。

 

坂本:工芸品に限らず、道具は何でも手入れを重ねると手放せなくなりますよね。

 

唐澤:おっしゃる通り、工芸品に限らず、道具を丁寧に使い込んでいくと、何かが乗っかってくる気がします。

 

今の時代、大量消費に疑問を感じている人は、少なくないと思います。身近な食器でも、金継ぎで直す人が居るくらいですから。

 

大量消費の対極にある価値観として、工芸品など身近な道具を大切にする。その暮らし方は、これからの時代、すごく意味があると思います。

 

坂本:とても興味深い話を、ありがとうございます。もっと話を聞いていたいところですが、インタビューの終わりの時間が来てしまいました。

 

それでは最後に国立工芸館の前で撮影をお願いしてもいいですか?

 

唐澤:はい。こちらこそ、今日はありがとうございました。

 

(編集部コメント:この後、国立工芸館の前で撮影をしていると、唐澤さんの足元に虫が飛来しました。

 

その虫の前で唐澤さんはしゃがみ込み、「これは外来種で、海外なら見つけたらすぐに踏みつぶすくらいの害虫です」と言います。

 

「虫にも詳しいのですか?」と聞くと、小さいころから虫が大好きで、徹底的に虫に関心を寄せ、自分なりの研究を重ねてきたとの話です。

 

 

何かに興味を持ち、好きだと思ったら徹底的に好きな理由を考える、その一貫した姿勢が、虫を語る姿からも感じられました。

 

館長のインタビューはここまで。最後は国立工芸館の展示渉外室の研究補佐員・小島美里さんに、工芸を巡る旅の1つの行き先にもなってくれる国立工芸館のガイドをしてもらいました。)

淡交社出版。2002年(平成14年)発行。

愛知県瀬戸市とその付近でつくられる陶磁器。

塗った漆に模様を彫り、その溝にあらためて漆を塗り込み、金を付着させて模様を描く技法。

10まちの中心部にある、漆の魅力を発信する情報拠点。

この記事を書いた人

坂本 正敬

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