国立工芸館の館長に聞く。北陸の工芸を巡る旅の「予習」。

2020.10.16

No. 05

工芸品は土地の素材に土地の人が手を加え、生活の中で息づいてきた。

左が展示渉外室の研究補佐員・小島美里さん。正面の作品は金子潤さんの陶芸作品。

小島:それでは、ここからは私が唐澤に代わって、館内のご紹介をさせていただきます。

 

坂本:よろしくお願いします。

 

館長の唐澤さんは単身赴任で東京から来ています。

 

素朴な疑問なのですが、小島さんなどスタッフの方も、皆さん東京から引っ越してきたのですか?

 

小島:実は私は、東京の人間ではなく、こちらの人間なのです。

 

国立工芸館のスタッフには、もちろん東京から来た人間も居ますが、一方で移転にあたり、地元で採用されたスタッフも居ます。

 

坂本:根掘り葉掘り聞きますが、小島さんは金沢にお住まいなのですか?

 

小島:実は、皆さんと同じ富山です。

 

坂本:ええ! 富山のどちらですか? 

 

小島:小矢部です。金沢で働いていて、富山に住んでいると、確かに驚かれますよね。

 

坂本:いいですね。

 

そうやって、富山に暮らしながら金沢で働くとか、その逆だとか、もっと北陸の人たちが県境を気にせずに、自由に行き来する未来を夢見て『HOKUROKU』というメディアを運営しています。

 

すでに実地でそのような暮らしを営んでいる人が目の前に居て、すごくうれしいです。

エントランスから続く廊下へ。

正面のエントランスホールから入って見える金子潤さんの陶芸作品。

小島:それではまず、正面のエントランスホールから入っていただき、渡り廊下から見える作品を紹介させてください。

 

国立工芸館は、旧陸軍金沢偕行社と、旧陸軍第九師団司令部庁舎の2つの古い建物を移築して、一部復元をしてから、2つの建物を、増築部分の渡り廊下でつないでいます。

 

向かって右が旧陸軍金沢偕行社。左が旧陸軍第九師団司令部庁舎。真ん中の渡り廊下が増築部分。見学コースは、エントランスから始まり、向かって左の旧陸軍第九師団司令部庁舎へと移動していく。

正面のエントランスから入ると、まずはこの1階の廊下に突き当ります。

 

国立工芸館は移転時に、東京から展示作品を持っていくのですが、この正面の展示作品については、世界的な陶芸作家の金子潤さんの陶芸作品を新収蔵し、展示しています。

 

坂本:大きいですね。どれくらいあるのですか?

 

小島:こちらは高さ約3メートルになります。作品の表面に、雨だれのような線が見えると思います。

 

 

降水量の多い金沢らしく、まるで水が流れ落ちるような線に感じられます。

 

坂本:この展示場所は、中庭のようになって、天井がありません。雪が降ったら、どうするのですか? 

 

小島:基本的には、そのままです。

 

坂本:逆に雪が積もった状態の作品も、味わいがあるかもしれませんね。

 

古い建物をそのまま移築した部分は、外壁も塗り直しているのですか?

 

小島:旧陸軍金沢偕行社の既存部分は、窓枠や柱の色を建築当時の色に再現しています。

 

旧陸軍金沢偕行社。

移築前はまた別の色だったのですが、この建物の建築当時の色に、塗り直しています。

 

坂本:旧陸軍金沢偕行社の基礎にある換気口の星形はなんでしょうか?

 

 

小島:旧陸軍が使用していた星形の装飾になります。

 

坂本:そもそもの疑問なのですが、旧陸軍金沢偕行社の偕行社とは、何なのですか?

 

小島:偕行社とは、陸軍の将校集会所(将校クラブ)になります。軍装品の販売所や、将校たちが娯楽を楽しめる遊戯室があったとされています。

 

もともとは県立能楽堂横の敷地にありましたが、今回を機に移築となりました。

エントランスから旧陸軍第九師団司令部庁舎へ。

エントランスから旧陸軍第九師団司令部庁舎へ向かう廊下。

小島:次は、旧陸軍第九師団司令部庁舎の方に行ってみましょう。こちらの1階には、ミュージアムショップ、ライブラリーがあります。

 

真ん中の渡り廊下から、向かって左の旧陸軍第九師団司令部庁舎1階へと移動していく。

坂本:ミュージアムショップ、ライブラリーの奥は、有料ゾーンですね。

 

小島:有料ゾーンは明治期の洋風建築の特徴がそのまま残されている階段室があり、その奥が展示室になります。

 

展示室1の手前にある展示コーナー。写真:太田拓実。

(一行は展示コーナーを見て回った後、明治期の洋風建築の特徴がそのまま残った階段を上って、旧陸軍第九師団司令部庁舎の2階に移動する)

 

2階へ通じる階段。

坂本:2階は、展示室が中心です。

 

小島:展示室は1階に1つ、2階に2つあります。2階には、石川県出身で工芸界の巨匠である松田権六11氏の自宅工房も移築されて、展示されています。

 

松田権六の仕事場。写真:太田拓実。

坂本:いただいた資料によると、松田権六さんとは、石川県出身で工芸会の巨匠だと書かれています。

 

いわゆる「人間国宝」で、文化勲章受章者とも書かれています。

 

全国的な施設である国立工芸館でも、全国に目配せしつつ、移転した石川県との関係をきちんと強調している点が、北陸の人間としてはうれしくなりますね。

 

松田権六<蒔絵螺鈿有職文筥>(部分)1960年 東京国立近代美術館蔵 写真:森善之

小島:2階へと上がってきた階段の目の前、建物2階の中央にある旧師団長室は、休憩室になる予定です。

 

旧師団長室の中から見た階段前のスペース。

坂本:この部屋は、もちろんですが、本当に旧陸軍第九師団の師団長が執務にあたっていた部屋なのですよね?

 

小島:はい。

 

坂本:時代が時代なら、このような部屋、一般人が立ち入れない部屋です。

 

実はHOKUROKUで過去に大正時代のスペイン風邪について取り上げた時、旧陸軍第九師団が何度も話題に出てきました。

 

関連記事:
100年前のニュースに学ぶ。北陸3県の「スペ イン風邪」365日

 

あの旧陸軍第九師団の、さらに師団長の部屋かと思うと、独特の感慨があります。

渡り廊下を通って旧陸軍金沢偕行社の2階へ。

向かって左の旧陸軍第九師団司令部庁舎の2階中央が旧師団長室。見学コースは、中央の増築部分の渡り廊下を通って、向かって右の旧陸軍金沢偕行社の2階へと移動していく。

小島:次は、先ほどインタビューをしていただいた旧陸軍金沢偕行社の2階へと、渡り廊下を通って移動していただきます。

 

坂本:旧陸軍金沢偕行社の2階には何があるのでしょうか?

 

小島:もともとあったホールを、多目的スペースとして改装しています。

 

陸軍金沢偕行社(2F多目的室)。写真:太田拓実。

坂本:この多目的スペースでは、何をするのでしょうか?

 

小島:例えば記者会見だとか、講演会や体験イベントだとかに活用する予定です。

 

坂本:この辺りは緑が多いので、窓の外から見える景色にも変化が多く、いい眺めですね。

 

窓からの眺め。※実際は多目的スペースの窓からの眺めではなく、館内の別の場所の窓から見た眺めです。

ところで肝心の新しい国立工芸館の展示なのですが、10月25日の開館とともに、どのような展覧会を行うのでしょうか?

 

小島:<工(たくみ)の芸術 素材・わざ・風土12>という開館記念展を行います。

 

開館記念展ポスター。

その記念展の名前の通り、素材と技と風土に着目して、近代日本工芸の名作を約130点、展示します。

 

日本の工芸品は、それ自体が自然の素材でできていて、さらにその素材に土地の人が手を加えて、生活の中で息づいてきました。

 

それぞれの地方がつちかってきた「風土」を新たにとらえ直す機会になればと思います。

 

坂本:まさに今回、HOKUROKUで1泊2日の小旅行を長期連載で取り上げようとした理由も、その風土と工芸の関係があるからです。

 

土地の素材を使って、土地の人たちが磨き抜いてきた、土地の生活や暮らしに役立つ工芸品を巡る旅を通じて、近くて遠い北陸3県の人たちが、それぞれの地域の共通点や相違点を具体的に感じるきっかけになればと思っているからです。

 

こうして今日、日本の工芸の総本山のような場所に来て、館長に話を聞き、工芸の魅力や工芸の楽しみ方を学べました。

 

さらにこのような見学ツアーの機会まで用意してもらいました。本当にありがとうございました。

 

この学びを、次の連載に生かしながら、HOKUROKU自身も工芸と向き合い、価値判断を深めていければと思います。

 

小島:実はこのタイミングで取材に来ていただいて、すごく良かったです(※取材は9月の下旬に行われた)。

 

もう少し遅く10月に入っていたら、準備が大詰めになってくるので、取材をお断りせざるを得ない状況だったかもしれません。

 

こうして地元のメディアにも着目していただき、感謝しています。

 

坂本:私も国立工芸館の中に、地元北陸のスタッフが居ると聞いて、さらに国立工芸館が身近に感じられました。

 

これからも、ぜひともよろしくお願いします。

 

小島:こちらこそ。今日はありがとうございました。

 

坂本:ありがとうございました。

 

(編集部コメント:ひとまず、北陸3県の工芸を巡る旅の案内、国立工芸館編はおしまいです。

 

国立工芸館の最初の記念展は、素材と技と風土を取り上げた記念展になると言います。

 

せっかくの機会ですから、開館後に訪れて、好きか、嫌いか、どうでもいいかの積み重ねを、国立工芸館でスタートしてみてもいいかもしれませんね。

 

それでは次は、北陸3県のどこかの産地に旅立ちます。唐澤館長の言葉にもあった、輪島にお邪魔しようかなあ。

 

ぜひ、続編を楽しみにしてくださいね。)

 

取材協力:東京国立近代美術館工芸館(国立工芸館)

 

文:坂本正敬
写真:笠原大貴
編集:大坪史弥、坂本正敬
編集協力:博多玲子、中嶋麻衣

11松田権六(1896~1986)。石川県生まれ。人間国宝、文化勲章受章。国立工芸館には<蒔絵竹林文箱(まきえちくりんもんはこ)>などが収蔵。

12会期は2020年(令和2年)10月25日(日)~2021年(令和3年)1月11日まで。期間中、一部展示替えあり。観覧料は一般500円、大学生は300円。来館予約制(詳しくは公式ホームページを要参照)。
https://www.momat.go.jp/cg/

この記事を書いた人

坂本 正敬

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