「買いたい」古民家「買ってはいけない」古民家

2020.10.02

vol. 05

ロケーションや風土を意識した空き家は美しい

氷見市(富山)の風景。北陸特有の黒瓦の古民家がまち並みを形成している

古い木造伝統工法の家のリフォームの問題や雨漏りと湿気の問題、人と家の共存関係などについてここまで話してきました。

 

買いの古民家・買ってはいけない古民家を判断する際の総仕上げとして建築物のたたずまいにも注目してください。

 

人や建物に対して「たたずまいがいい」という表現を使います。建築物のたたずまいは建築コンセプトとも言い換えられます。

 

建て方のコンセプトに無理があると、ちょっとしたリノベーションでは根本的な問題が解決しない場合もあります。

 

コンセプトに無理がある空き家(正確には空き物件)は例えば、同じ時代に建てられた周囲の住宅と比べても見るからにひどく傷んでいる場合があります。

 

それなりに管理もしていて補修にお金をかけているのに、空き家になった建築物がみるみる傷んでしまう場合は、そもそもの建て方に問題があるのかもしれません。

「買い」の古民家の特徴
周囲の建築物と調和のとれたたたずまいをしている

私の考える建築コンセプトとは、どんな土地の・どんな環境に・どんな営みを想定して建築物をつくるかという基本構想とも言い換えられます。

 

山や川、湖沼が近かったり、周辺より土地が低かったりすると、地面の湿気は無視できません。どんな都合よりも好みよりも床を高く、床下に湿気に強い建材を使う必要がまずあります。

 

比較的床の高い古民家の床下の様子。束(つか)と呼ばれる床材の支えが基礎石に乗っている。硬い石は水分を吸わないので基礎に向いている。風通しも良い

湿気が気になる土地には自然に床の高い古民家が並んでいます。その風景の中では床の高い建築物に見た目の安心感が生まれます。

 

前回も軽く触れましたが、コンクリートで土間基礎(ベタ基礎)を打ったとしても地面からの湿気は防げません。

 

湿気が気になる土地では施主と施工主が床下の風通しを良くする設計と工事を全力で選択します。

 

結果として床の高い・健全性の高い家が建ち並び、自然に周囲と調和がとれたたたずまいのある家になるのです。

見ていて安心感を覚える・その場に溶け込む姿

コンクリートの基礎にモルタル仕上げ土間。この上にさらに床をつくる場合は床下通風を万全にしなければらない

湿気の多い土地のたたずまいを考えましたが一方で、1日を通して日当たりの良すぎる場所に建つ空き家にも安心できるたたずまいがあります。

 

日当たりの良すぎる家は昼と夜、冬と夏とで温度差があり過ぎるため、建材の膨張や伸縮が激しく傷みやすい環境にさらされています。

 

そうした土地に建つ建築物の場合、軒先(屋根の先端の辺り)が伸ばされて影がつくられていたり、窓から内部に入る日差しが調整されていたり、その土地に固有の方角から吹く風を上手に取り込んでいたり、ロケーションや風土を意識したたたずまいが感じられます。

 

この特集を書きながら、あらためて「たたずまい」について考えてみました。「たたずまい」とは見ていて安心感を覚える、その場に溶け込んでいる姿を言うのだと自分自身でも新しい発見がありました。

 

古い木造伝統工法で建てられた住宅は、その土地の風土と共存するために周辺の住宅と共通点や調和が見て取れるはずです。

 

その土地で長く生き抜いてきた先人たちの知恵が、風土に適した建築的な共通点をつくり、その土地の景観をつくるのです。

 

気になる古民家があれば、その家と周囲の建築物のたたずまいを見比べてください。

 

周りとの調和がとれているかどうか、変に目立っていないかといったポイントは長持ちする古民家を見分ける大切な条件だと言えます。

「買い」の古民家の特徴
風土に合わせたコンセプトが建築物に見られる

今回の話はここまで。

 

伝えたい話のほんの入り口で終わる形になりましたがいかがでしたでか。

 

次回以降は、リノベーションを実際に私が手掛けてきた物件を詳しく振り返りながら、買いの古民家・買ってはいけない古民家を見分ける目を深めたいと思います。

 

北陸(もちろん日本)のアイデンティティとも言える木造伝統工法でつくられた古民家。

 

その素晴らしい財産を生かして多くの方がすてきリノベーションを実現できるように、このマガジン・プログラム(長期シリーズ連載)でお手伝いできればと思います。

「買い」の古民家の特徴まとめ

 

第1話

  • 空き家になってから10年以上が経過していない。

第2話

  • 空き家となってからも人の手でこまめに換気が行われている。
  • 人の手による換気がこまめに行われていなくても木造伝統工法のおかげで自然に換気が行われている。

第3話

  • 古い木造伝統工法の家にリフォームの痕跡がない。

第4話

  • 雨漏りや湿気で木材に半乾きの状態が長く続いていない、あるいはゆっくりとしか乾かない状態が続いていない。

第5話

  • 周囲の建築物と調和のとれたたたずまいをしている。
  • 風土に合わせたコンセプトが建築物に見られる。

編集長のコメント:家のたたずまいを見るっていい話ですね。確かに風土に合わせてまち並みに調和がとれている光景を目の当たりにすると思わずうっとりとしてしまいます。

 

まだまだ続く長期的なシリーズ連載。続編を楽しみに待っていてくださいね。)

 

文と写真:明石博之
編集:坂本正敬・大坪史弥
編集協力:博多玲子・中嶋麻衣

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