キャッチコピーをどこで出すか
―― 先ほど、敗色濃厚という言葉がありました。ラインアップを見るとそうも思えないのですが。
何が、敗色濃厚なのでしょう。
宮保:どこで、どんな風にキャッチコピーを出すかが広告では重要で、そこを決めていないからです。
どこにとは、テレビに出すのか、新聞に出すのか、店先に出すのか、ポスティングするのか。出す場所で言葉がかなり変わってきます。
インターネットをご高齢の方々は見ない可能性もあると思えば、公式ホームページでキャッチコピーを掲載しても確かに意味がありませんよね。
宮保:キャッチコピーを自分のお店で書かれる方も、どこでどんな風に読まれるのかをちゃんと頭に入れた方がいいです。
―― 本来なら、それはいつ考えるべきですか? 今回の話で言うと。
宮保:最初ですね。「What to say? (何を言うか)」でターゲットを決めたじゃないですか。
―― 近所に住む高齢者か、女子大生か。
宮保:ターゲットを決める段階で媒体が決まってくるケースが多いので、ターゲットの次ですかね。順序で言えば。
―― 高齢者か女子大生か、それぞれに適した媒体は確かに違ってきそうです。
宮保:少なくとも「インスタ」ではないですよね。高齢者の場合。
(一同、笑う。)
そうなると、北國新聞など地元紙の新聞広告などになってくるのかもしれませんが、出稿に大きなお金を出してとなると、今回の特集の意図とずれてしまう気がします。
もっとパーソナルな感じがいいですよね。どうしましょうか。
―― 回覧板はどうですか?
宮保:回覧板ですか(笑)余計に負けルートのような気がしますが、大丈夫ですか?
―― 回覧板そのものに広告が出稿されている場合もありますよね。
地元のお知らせとして、キャッチコピーを印刷したコピー用紙を挟んで回してもいいと町内会長が認めてくれたとします。
その設定で、キャッチコピーづくりを進めてもらえませんか?
この特集が発表されたら、回覧板で本当に実践してもらえるとうれしいです。
宮保:困ったなー(笑)
回覧板か。本気で集客を考えるとクーポンを入れるとか、いろいろな手が考えられます。
しかし、コピー1本でという話ですよね。
―― もちろんです。
(宮保さん、しばらく沈黙する。)
宮保:メディアが回覧板となると回覧板の特性を使いたい気持ちにもなってきます。
あくまでも考え方の一例ですけど、次の人に手渡しした際に、ちょっとコーヒーに誘うといったコミュニケーションが提案できないか。そうすると、
「おいしいコーヒー飲みながら、ゆっくり回覧板見ませんか?」
みたいなキャッチコピーもあるかもしれません。
回覧板をお店まで持ってこなくても「ちょっと一緒にコーヒーを飲みに行きませんか?」と回覧板を渡す時に誘ってもらえたらいいですよね。
もちろん、こう思った瞬間「そんなのしねえよ」と平凡な感性が突っ込みを入れてくるのですが、考え方としてはありだと思います。
また、野菜を渡したりもらったりする昭和みたいなご近所付き合いが寺町には残っています。
そのつながりの中に、ご近所付き合いの場としてワザナカフェを使ってもらえたらいいなとも感じます。
回覧板で広告を出す意味も出てくると思いますし。
―― 媒体の特性を生かした宣伝戦略という話ですね。
宮保:他の切り口で考えると、ワザナカフェは来年の2月で4周年を迎えます。
コピーとは本来、課題を解決するための言葉だと僕は定義しています。
地域のご高齢の方に一度足を運んでもらうための言葉が必要だとすれば、情緒的な表現もありだと思うんですよね。
―― 情緒的な表現とは何ですか?
宮保:「寺町で4周年、丸3年、ありがとうございます」と、ど平凡ですけれど感謝を伝えるといった意味です。
この寺町という場所で4周年を迎えようとしている自分を振り返った時、本当に伝えたい思いは何なのか、とっぴな広告を回覧板にねじ込みたいかと言われれば、正直違和感があります。
先ほど案として出た「平均年齢、○○歳です。」は回覧板に挟む言葉として適していない気がします。
本来なら敷居を下げるための言葉が、地域の信頼を下げる恐れがあるからです。
「こんな変わったことをする人たちのお店は行きたくない」と真逆の効果を生みかねないと思うのですね。
この3年間、来ていただけなかった・来る機会がなかった方々に「ウェルカムですよ、ゆっくり過ごしてください」と伝えたい。
そんな自分としてどういう表現になるべきかを考えると、情緒的な表現で「ありがとうございます」と感謝の思いを伝えるアプローチを選択するだろうと感じます。
―― これこそ、リアルな気持ちですよね。
他人の商売の広告を考えるのではなく、この土地でカフェをやってきた本人がメッセージを地元の方々に回覧板で出そうと本気で思った時「ありがとう」を伝えるキャッチコピーをつくりたくなったと。
壮大な回り道になりましたが、最終的な「What to say? (何を言うか)」は「ありがとう」になるのですね。
宮保:そうですね。もちろん他にもあるんじゃないかという考え方もありますが。これ、大丈夫かな(笑)
―― 考え方のプロセスが見えればいいのでご心配なく。
宮保:ただ「ありがとう」を「ありがとう」と単純に伝えるだけでは、食べ物屋さんが「うまい」とキャッチコピーを出すケースと変わらなくなってしまいます。
「ありがとう」を他の表現で伝える方法はないのかと考えなければいけません。
―― いよいよ「How to say?」の部分に入るのですね。「ありがとう」では芸がないと。
宮保:今まで来ていない方々に来てもらいたい、これが今回の目的です。
「寺町の方にたくさん来てもらっています。ありがとうございます。お会いしていない方もぜひ来てください。」という構造で何か別の表現ができるはずです。回覧板に挟むなら、この方向で言葉を考えたいです。
―― 構造は分かりました。では、具体的に表現はどうしましょう。
宮保:うーん。
(宮保さんはしばらく考え込む)
―― 普段と違って、思い付いた言葉をパソコンの画面上でリスト化しながら考えられないので、ちょっと過酷な環境ですよね。
武井:確かに。頭の一時置き場が何も使えないから。
宮保:キャッチコピーは、
「寺町の中では、まだまだ新参者です。」
でいきましょう。このキャッチコピーが目に入ると「『新参者』ってどういうこと?」という疑問が浮かぶと思います。
そこで下に続く文章が引き受けます
「ワザナカフェ、おかげさまで4周年です。
寺町にゆっくりと馴染んでいけたらと思っています。
近隣の皆さまのご来店、お待ちしています。」
でしょうか。
―― 解説をお願いします。
宮保:「寺町の中では」は地域を見ています。
「4周年」「新参者」という言葉からは、何百年という歴史が積み重なった寺町だとか、同じ地域で商売している先輩方へのリスペクトが込められています。
感謝の気持ちを伝えた上で「来てもらいたい」との気持ちも最後に伝えています。
あくまでも考え方の一例ですが、回覧板ならこんな感じかと。
―― 正直な感想としてすごくシンプルな表現に感じます。
宮保:これはぜひ伝えていただきたいのですが、ターゲット(誰に)が決まって、媒体(どこで)が決まったら、キャッチコピーに託された役割としては「見る人を引っ掛ける」があると思っています。
見る人に引っ掛かるのであれば、キャッチコピーそのものに何か特別な言葉が入っている必要もありません。
「どこで」「誰に」を前提に、何が引っ掛かるのかをしっかり考えたのであれば、言葉そのものが平凡でも、その言葉がフックになる限り、立派なキャッチコピーです。
―― キャッチコピーを書く=うまい表現・気の利いた言葉を考える作業だと、多くの人が恐らく思っているはずです。私自身もそう考えていました。
過去の名キャッチコピーを分析し、気の利いた言葉を整理して、それらを効果的に活用していこうといった解説に終始する指南書も世の中には現にあります。
要するに「How to say? (どう言うか)」の解説に力を入れた初心者向けのガイドブックです。
しかし、コピーライティングの作業は根本的に違っていて「How to say? (どう言うか)」に最初からこだわったところで、何も意味がないのですね。
きちんと「引っ掛かる」のであれば、すごく平凡な言葉でもむしろ問題ないとの話です。すごく勉強になりました。
(副編集長のコメント:内容だけでなく、どこでどうやってキャッチコピーと出合うかは重要な問題です。
出勤ラッシュの駅のホームの看板で見かけるコピーと回覧板で見かけるコピーとでは同じ言葉でもきっと受け取り方が違うはずです。
人はどこでどんな気分になるのか日ごろから観察していると役に立ちそうです。
次回は最終回。改行や余白などキャッチコピーの視覚的デザインについて話が及びました。)
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