コピーライターでない人が「キャッチコピー」を自分の商売で考える時に考えるべき話

2022.02.06

vol. 05

改行はすごく大事

 

―― 最後に聞きたいのですけれど、キャッチコピーって句読点だとか改行の問題もあるじゃないですか。

 

やはり句読点とか改行はすごく重要なのですか?

 

宮保:改行はすごく大きいと思います。改行を含めてコピーだと思っています。

 

―― 句読点はあまり重要ではないのですか?

 

宮保:長文の句読点より意味は大きいと思います。

 

「ここで一拍置いてほしい」「最後にばしっと決めたい」など、一行で勝負しなければいけない世界における強調表現として句読点が存在すると思います

 

―― 音楽的意味での強調ですか?

 

宮保:そうですね。

 

―― 音楽的意味での強調は長文でもあるはずです。

 

しかし〈源氏物語〉の原文だとか、泉鏡花・谷崎潤一郎の小説など、句読点を極端に排除した(句読点が存在しない)名文が存在する事実を考えると、長編における句読点の存在は確かに短文よりも軽いのかもしれませんね。

 

宮保:ただ、句読点を入れておけば、コピーっぽく見えるという側面もあるので、その落とし穴に素人の方ほど陥ってしまうケースもあります。

 

―― これは詩なので当てはまりませんが、

 

「僕の前に道はない。

 

僕の後ろに道ができる。

 

みたいな感じですね。

 

「僕の前に道はない

 

僕の後ろに道ができる」

 

でもいいけれど。

 

宮保:もっと極端な例を言えば、

 

「明日。」

 

みたいな。

 

ただ、句読点を皆が打つほどに陳腐化していくので「句読点だらけ」の世界に広告屋としてはカウンターを打ちたくなってきます。

 

「句読点を打ちたくないブーム」みたいな時期が僕自身も個人的にあって、一切付けないキャッチコピーばかり一時期つくっていました。

 

これなんか、句読点を付けないようにしていた時期の文章です。

 

提供:ワザナカ

 

―― 確かに句読点がないですね。でも、ブームも今はひと段落して。

 

宮保:はい。そういうことじゃねえなと。

 

(一同、笑う。)

 

―― でも、改行は重要という話ですね。

 

「わんこが

 

よろこぶ

 

いいフード」

 

視覚的要素(見た目)と音楽的要素(響き)が文章にはあると小説家の谷崎潤一郎も言っています。

 

表意文字10を日本語は使っていますので、絵画的な美しさは常にあって、音楽的な響きの心地良さも一方で確実にあるわけです。

 

その視覚的な見え方(まとまり)と、音楽的な響きの心地良さを考えて改行を加えるといったイメージだと思います。では、

 

「寺町の中では、まだまだ新参者です。」

 

これを改行するとしたら、どこになりますか?

 

宮保:レイアウトによりますが、最初に思い付くアイデアは、

「寺町の中では、

 

まだまだ新参者です。」

ですね。やっぱり。

 

―― 大まかに言って3パターン、この文章の改行は考えられると思います。

「寺町の中ではまだまだ新参者です。」

「寺町の中では、

 

まだまだ新参者です。」

「寺町の中では、

 

まだまだ

 

新参者です。」

「まだまだ」と「新参者」を分けたくない理由は何でしょうか?

 

宮保:このキャッチコピーでは「新参者」が最も引っ掛かりの強い言葉です。

 

3行にしてしまうとその「新参者」の言葉がパッと見た時に真ん中に来ません。

 

―― なるほど。

 

宮保:ただ、2行にしてしまうと、1行目と2行目の長さが違いすぎるという弱点もあります。

 

なので、レイアウト次第ですけれど、

「寺町の中では、

 

まだまだ

 

新参者です。」

と3行にして、固まりとして見せる場合もあるかもしれません。

 

デザイン:ワザナカ

 

―― 先ほどのわんこの話を併せて考えると、意味のまとまりで短く改行すれば、視覚的な理解のしやすさ・リズムの気持ち良さが強調されると分かります。

 

ただし、引っ掛かりのある「新参者」が3行にした場合、読者の目に入るまでに時間が掛かってしまうのですね。

 

武井:そこでちょっと質問です。

 

ウェブや紙をデザインする中で、誰かのつくったコピーをあてこんでいくと、デザインの関係から改行を調整しなければいけないケースが出てきます。

 

 

今回の例は2行ですけれど、例えば、

 

「寺町の中では、

 

まだまだ

 

新参者です。」

 

とコピーライターが改行したいと言ってきたとしても、デザインの関係で3行に分けられないケースもあるはずです。その場合はどうされていますか?

 

宮保:僕としては、改行を勝手に入れたり、外されたりするのは嫌なんです。

 

ただ、現実には、ケースバイケースだと思います。

 

改行を外されても大きく影響がない場合と、すごく大きい場合があります。

 

すごく影響が大きい場合に、デザインの都合で仕方なく改行されたとしたら、僕の場合は一度戻してもらって、読点や文字数などを調整し、狙った改行を残してもらいます。

 

もちろん、最初からデザインが決まっていて、その文字数や改行にぴったりはまるコピーを僕が考える場合もあります。

 

しかし、その場合であっても、僕が思い付いたコピーの方が良くなると思ったら、デザインの組み方を変えてもらうように交渉します。

 

コピーライターがデザイナーの意向をくむ時もありますし、コピーライターが自分の考えを押し切る時も逆にあるはずです。

 

―― 要するに、現実的な制約や条件の中でベストを目指せという話ですね。

 

今回のテーマは、コピーライターでない人がキャッチコピーを自分の商売で考える時に考える話です。

 

改行も含めたデザインも結局は自分でやって、プリンターで印刷する場面も考えられます。

 

改行に明確な意図や意味、哲学があるならば、句読点を調整してでも改行を守れという話ですね。

もったいない部分を補完してあげる

 

―― インタビューはこれで以上になります。

 

ちなみに今日は捨ててしまいましたが、事前に用意した質問の中に、HOKUROKUの特集にキャッチコピーを付けてほしいとの質問がありました。

 

宮崎駿監督〈もののけ姫〉のキャッチコピーを糸井重里さんが「生きろ。」と書いています。

 

その傑作と比較にはならないのですが、HOKUROKUにも物語的な読み物があります。金沢に伝わる子育て幽霊の短い怪談話を各種の史料で肉付けして物語にしました。

関連:北陸に伝わる怪談話。金沢の「子育て幽霊」編

これのキャッチコピーとかって、何か考えてくださいましたか? 

 

ご用意いただいたのならば、もったいないので聞いて帰ろうかと。

 

宮保:その質問が来たら「いったん持ち帰らせてください」と言おうと思っていました(笑)

 

―― そうですか(笑)

 

 

宮保:ただ、読んでいてちょっともったいない気がしたんですよね。

 

昔ながらの伝承されてきた怪談ではなく、オリジナルの怪談話を坂本さんが書いたのかとタイトルを見て最初に思いました。

 

(※編集部注:取材前のタイトルは、

 

北陸怪談話。金沢の『子育て幽霊』編

 

宮保さんの指摘を受けて取材後に、

 

北陸に伝わる怪談話。金沢の『子育て幽霊』編

 

に調整した。)

 

しかし、実際に拝見すると、実話ではないけれど古くから伝わる金沢の怪談話がリアルに描かれていて、しかも舞台がこの近所じゃないですか。

 

―― 墓の中の赤ちゃんに子育て幽霊が食べ物を与える墓地は、すぐそこの立像寺11ですよね。

 

 

宮保:作中に出てくる階段などは「あの階段じゃないのか」などと想像しながら読んでいました。

 

江戸時代の階段が今も残っているって、すごい話ですよね。

 

だから、その辺りを言葉にしたら面白くなるのかなと思いました。

 

例えば「この物語は実話を基にしています」みたいな決まり文句があるじゃないですか。

 

それをもじって「この物語の舞台は実在しています」みたいな方向性のコピーを提案しようと思っていました。

 

タイトルに弱点があるのならば、伝えきれていない・もったいない部分を補完してあげるキャッチコピーになればと感じました。

 

―― 言われてみると確かにそうですね。

 

HOKUROKUの創作怪談話だとあのタイトルでは勘違いされてもおかしくありません。

 

売れっ子の小説家でもない人間が書いた創作話なんて誰も手が伸びないと、先ほど教わった凡人の感性で考えれば分かります。

 

その時点で、読んでくれない人が出てきてしまうわけですね。

 

一方で、自分の書いた文章を客観的に見る難しさをあらためて指摘されて感じました。

 

HOKUROKUの場合はプロデューサーや副編集長などに客観的な意見をもらえる仕組みを用意していますが、それでもこのようなケースが起こります。

 

コピーライターでない人がキャッチコピーを自分の商売で考える時は、宮保さんに教わった考え方を大いに生かした上で、信頼できる人たちに意見をもらう作業を世に出す前に忘れずにした方がいいと余計に思いました。

 

もちろん、それらの作業の中で、いつか限界に突き当たるケースも出てくると思います。

 

HOKUROKUの先ほどのタイトルのように、どこまで頑張っても身内だけでは客観性が保てない場面も当然あります。

 

予算が掛けられる、しかも一世一代の勝負だと思う時は、今回の特集の本題と矛盾するようですが、プロのコピーライターに迷わず頼る判断も必要だと感じました。

 

ここまでに教えてもらった考え方を発注する側として持っていれば、プロのコピーライターとのやり取りも、質の高いコミュニケーションになるはずですし。

 

そんな時は、北陸コピーライターズクラブなどを通じて、コピーライターを紹介してもらえばいいのですね。

 

いずれにせよ宮保さん、お忙しい中で今日はありがとうございました。

 

あいにくの雨ですが、外の光の中での写真撮影もちょっとだけお願いできますか?

 

宮保:分かりました。今日はありがとうございました。

 

 

副編集長のコメント:宮保さんのキャッチコピーを考えるプロセスは非常に参考になりそうです。

 

方法論を知るだけでなく「What to say? (何を言うか)」「How to say? (どう言うか)」を意識して日ごろの情報発信をすれば立派なトレーニングになると思います。

 

HOKUROKUのSNSやメールマガジンで実践していかないとなぁ。)

 

文:坂本正敬

写真:笠原大貴

編集:大坪史弥・坂本正敬

編集協力:明石博之・武井靖

高村光太郎〈道程〉の言葉。

10 意味を絵や形に置き換えて表した文字。漢字が代表例。

11 金沢市寺町4丁目にある日蓮宗のお寺。

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