泊まる楽しみはもっと深い。新・北陸の宿。

2021.03.05

vol. 05

総力戦によって獲得できる評価が「心地良さ」

〈民家ホテル・金ノ三寸〉(富山県高岡市)のベッドルーム。撮影:山本哲朗。

宿を味わい尽くすための工夫は、他にもあります。まず、試してほしい楽しみ方は、ルームサービスです。

 

有名なホテルに泊まった経験はあっても、ルームサービスを利用した経験がない人は多いのではないでしょうか?

 

確かに、メニュー表に書かれている値段だけを見ると、注文する気が失せてしまうかもしれません。

 

しかし、気を許した環境の中で、リラックスした時間に、好きなタイミングで、いろいろな飲み物や食事が頼めるという体験は、ルームサービスならではの価値だと思います。

 

〈ペニンシュラ東京〉(東京都千代田区)のゲストルームからの眺め。撮影:明石博之。

ルームサービス初心者だった若かりしころは、スタッフを部屋に迎え入れるため、きちんとした服装のままでいようとしたり、身支度を整えてから朝食を頼んだりしました。

 

しかしそれでは、ルームサービスの醍醐味(だいごみ)を味わえません。

 

それほど広くない部屋でも、ルームサービスを頼むと、実はルームサービスを快適に使える間取になっていると気付きます。

 

テーブルや椅子の高さ関係が絶妙に調整されていたり、配膳のカートや調味料の入れ物などが工夫されていたりと、さまざまな発見があります。

 

当時の私はゲストがどんな格好で、どんな気持ちでスタッフを迎え入れればいいのか、客室係にストレートに聞いた経験もあります。

 

気さくな女性スタッフは、「お客さまがくつろいでいると思うとうれしいです。私たちを空気のような存在だと思ってほしい」と言ってくれました。

 

こうしたスタッフとの何気ない会話の楽しみも含めて、お部屋のグレードを下げてでも、ルームサービスをぜいたくに使ってみてはいかがでしょうか。

使い慣れたマイ包丁や調味料を持ち込む。

民家ホテル・金ノ三寸(富山県高岡市)に用意されたグッズ。撮影:山本哲朗。

併せて、宿の「カスタマイズ」にもチャレンジしてみてください。

 

カスタマイズと言っても、物理的に部屋のどこかをいじるという話ではありません。

 

自分がより楽しめる空間にするために、好きなアイテムを持ち込むという趣旨です。

 

宿にこもって読書したり、好きな音楽を聴いたり、ブログを書いたり、趣味の創作をしたりと、非日常の空間だからこそはかどる、楽しめる作業もあると思います。

 

民家ホテル・金ノ三寸(富山県高岡市)のキッチンスペース。撮影:山本哲朗。

最近では、1棟貸しの宿にキッチンや調理道具一式がそろっているケースも目立ちます。

 

ホテル内にシェアキッチンがあるなど、料理を楽しむ環境が用意されている宿も、北陸に多くなってきました。

 

その宿に例えば、使い慣れた「マイ包丁」や調味料を持ち込む手もあります。

 

地元の食材を買い込んで〈YouTube〉にアップされている動画を見ながら、郷土料理に挑戦してみるなども楽しい体験です。

 

宿が用意しているグッズ、アメニティだけに頼らず、毎日使っている生活用品の一部を持参すれば、より快適な宿泊にもなるはずです。

 

〈アンダーズ東京〉(東京都港区)のゲストルームに置いてあるアメニティーセット。

一方の宿としても、利用者のカスタマイズしたい気持ちを、柔軟に受け入れられる環境を整えたり、高めたりできるように、努力しているはずです。

 

読書にぴったりの椅子が置かれていたり、「スマホ」と無線接続できる上級モデルのWiFiスピーカーがあったりするかもしれません。

 

人によっては、それらの環境がリピートしたくなる動機になるかもしれません。

続編への一言。宿の「心地良さ」ってなんだ?

最後に、私の考える宿の「心地良さ」についてお伝えしたいと思います。

 

冒頭の自己紹介でも伝えた通り、私は今では、ホテルや旅館、レストラン、バーなどの空間デザインも手掛けています。

 

目に見えるアウトプットとして、建築だったり、インテリアだったりと、具象化された、実体のある何かを世の中に送り出しています。

 

しかし、何かをアウトプットする際の私の意識は、常に目に見えない「場」や「空間」に向いています。

 

同時に人々に愛される「場」や「空間」とは何だろうかと、ずっと考えています。

 

空間には「空」という言葉が入っています。「空」には「何もない」という意味がありますが、同時に目に見えない何かを感じられるスペースとも言い換えられるはずです。

 

何かを感じられるのであれば、同時に見えない何かを評価しているとも言えます。

 

〈喜代多旅館〉(富山県富山市)の館内共有スペース。撮影:山本哲朗。

家具や建築などは、見た目の格好良さ、可愛さ、個性などが評価できます。

 

しかし、例えば椅子が置かれている空間なら、椅子に座ってみて初めて分かる、「心地良さ」という目に見えない評価があります。

 

宿やカフェなど空間を楽しむ場所においては、見た目よりも心地良さを重視する人も少なくないでしょう。

 

では「なんか、しっくりくる」だとか、「なんか落ち着く」だとかといった「心地良さ」は、どこから来るのでしょうか?

 

私の考えは、総合力だと思っています。

 

素材、形状、硬さ、機能に始まり、それらに起因した上手く言葉にできない感覚的な評価を含めて、あらゆる要素の総合力により、生み出される価値が心地良さだと思っています。

 

喜代多旅館に併設するレストランへ続く細い通路。喜代多旅館は、富山市内の古い日本旅館をリノベーションして、2019年(平成31年、令和元年)にリニューアルオープンした。企画段階からオープンまでの総合プロデュースを担当し、建築事務所と空間デザイナーに参加してもらいながら、施設各所の空気感、心地良さを気にし続けた。

言い換えれば、私の仕事は、このあらゆる要素の総合力によって生まれる心地良さの追求です。

 

間取りが面白い、デザインが格好いい、素材がすてき、使いやすい家具が置いてある、導線計画がしっかりしているなど、あらゆる部門を突き詰め、その総力戦によって獲得できる「心地良さ」を評価として求めているわけです。

 

当然ですが、自分で宿に泊まって、「ここは心地良いなぁ」と感じた時は、なぜ心地良いのかを探求します。

 

しかもこの「心地良さ」は、宿選びの重大なファクターにもなってくれるのです。

 

だからこそ、この連載の中では、心地良さの謎解きと言うべきか、心地良さが生まれる仕組みの要素分解を通じて、心地のいい北陸の宿を、皆さんに伝えてみようとも考えています。

 

上手くいくか心配ではありますが、次回からは具体的な宿の紹介を始めてみます。

 

(編集長のコメント:この連載を書いた明石が先日、「北陸の宿をもっともっと気にかけてチェックしたい」とあらためて言っていました。

 

全国各地の宿に泊まるたびに、「ここは心地良いなあ」と感じた原因を探求してきた明石が、いよいよ本気で北陸の宿に目を向け始めるわけです。

 

来週には早々に、具体的な1つの宿が登場します。

 

高級だとか上質だとか、お得だとか便利だとか、口コミがいいだとか、そういった分かりやすい評価軸で論じられる宿のラインアップとは少し違った宿が、この連載では並ぶはずです。

 

ぜひ、北陸3県におけるマイクロツーリズムを楽しむ拠点の宿探しに、役立ててくださいね。)

 

文・写真:明石博之

カバー写真:山本哲朗

編集:坂本正敬、大坪史弥

編集協力:中嶋麻衣

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