「HACHIBAN-RAMEN」がタイで“ラーメン”の代名詞に。8番らーめん成功の物語

2020.09.21

第1回

店舗の家賃を20年分一括で前払い

インタビュー取材はオンラインで行われた。株式会社ハチバンの営業戦略部の村中美貴さん、8番らーめんの海外事業部タイエリア担当の中島秀幸さん、株式会社ハチバントレーディングタイランドで取締役を務める清治(せいじ)洋さんに話を聞いた

 

―― 今日は、お時間を頂き、ありがとうございます。〈HOKUROKU〉で副編集長を務める大坪史弥といいます。

 

北陸のソウルフードとも言える〈8番らーめん〉をさまざまな角度から取り上げさせてもらっています。この特集が出るころには他の特集も公開されているはずです。

関連:漫画家ちさこ先生と考える「8番らーめん」が北陸で愛される理由

 

「8番」の本店で聞いた。野菜トマトらーめんの通な食べ方講座

一連の特集を準備する段階で、東南アジアのタイの方が北陸3県よりも8番らーめんの店舗が多いと知りました。

 

このびっくり仰天の事実は北陸に暮らす人たちを喜ばせると思います。自分たちの慣れ親しんだ食べ物が世界で受け入れられていると分かれば誇りに感じられるはずだからです。

 

海外展開を考える北陸の企業にとっても参考になるのではないでしょうか。

 

だからこそ、8番らーめんがいかにタイで店舗を拡大できたのか、どのように現地で愛されているのか、1つの特集としてその真実を取り上げたいと思いました。

 

そこで、オンラインで皆さんに本日は集まってもらいました。

 

一同:よろしくお願いします。

 

―― このオンライン座談会の状況そのものを読者の皆さんへ最初に説明させてください。

 

日本の富山にある〈COMSYOKU〉というコワーキングスペースの会議室に僕がいて、株式会社ハチバン(本社:金沢市)の営業戦略部に所属する村中美貴さんにはオンラインで石川県からつながってもらっています。

 

さらに、タイからもつながってもらっています。タイの方々から自己紹介をお願いできますか?

 

中島:はじめまして。8番らーめんの海外事業部タイエリアを担当している中島秀幸と申します。株式会社ハチバントレーディングタイランド(本社:バンコク)で取締役を務める清治(せいじ)洋が隣にいます。よろしくお願いします。

 

清治:よろしくお願いします。

 

写真左上:営業戦略部の村中美貴さん、写真下左:中島秀幸さん、写真下右:清治洋さん

―― 素朴な疑問なのですが2人とも北陸のご出身なんですか?

 

中島:いいえ。私も清治も東京です。タイの現地採用で拾ってもらって入社4年になります。

 

清治:私も中途入社で今年18年になります。

 

―― 18年ですか。どのようなお仕事をタイではされているのでしょう?

 

中島:基本的な仕事はタイの店舗指導です。日本の8番らーめんが現地でつくった子会社にわれわれは所属していて、タイの現地法人が実際に店舗を運営しています。

 

タイの8番らーめんが全然違う方向に進まないように「8番らーめんのスタンダードはこれですよ」「接客はこうしますよ」とすり合わせをして、より良いサービスを一緒につくっていく仕事がメインですね。

「これだったらタイでも絶対に売れる」

―― タイへの出店についてまずお聞かせください。海外初進出の地にタイを選ばれた理由はなぜでしょう?

 

食事でもおやつでもタイでは麺(めん)文化の盛んな印象があります。こうした食文化が、タイへの出店の背景にあるのでしょうか。

 

中島:いえ。8番らーめんとしては海外展開をそもそも当時考えていませんでした。きっかけは1人のタイの方との出会いでした。

 

タイで事業をされているパイサル・リンさんという方が1980年代後半に仕事で来日されました。タイナム・シン社という繊維関係の企業オーナーです。

 

タイナム・シン社はタイでは当時指折りの企業です。日本の繊維メーカーとも取引している関係でパイサルさんは毎年日本を訪れていました。

 

パイサル・リンさん

パイサルさんがある時、福井県の店舗で8番らーめんを食べて感動されたそうです。「なんておいしいラーメンなんだ。これだったらタイでも絶対に売れるぞ」と。

 

その後「ぜひ、タイでも出店したい」とのご連絡がパイサルさんから弊社にありました。ハチバンとしては何度かお断りしたのですが、諦めずに何度もご連絡を頂き、タイへの出店計画がスタートしました。

 

―― すごいですね。全く違う業界にいながらそこまで決意されるとは相当の感動があったのだと思います。

 

タイの1店舗目はどういった営業形態なのですか?

 

中島:フランチャイズ契約です。

 

―― 基本的な話で恐縮なのですが、フランチャイズとは親会社が契約者に与える(一定の地域内での)独占販売権という意味ですよね。

 

僕も詳しくはないのですが、日本の飲食店が海外に進出する場合、フランチャイズではなく直営店舗を普通はオープンするのではないでしょうか。

 

直営店舗ではなく、パイサルさんの場合は、8番らーめんの独占販売権を購入したとの理解でよろしいですか?

 

中島:はい。タイナムシン、ハチバン、および伊藤忠商事(本社:東京都港区)の3社で合弁会社タイハチバンを設立し、株式会社ハチバンとタイハチバンでフランチャイズ契約しています。

 

タイで展開する8番らーめんの店舗は全てタイハチバンのお店です。

 

―― それは意外でした。海外1号店はてっきり直営店舗なのかと思っていました。

得体の知れない店にシーロムの一等地は貸せない

現在のタイにおける8番らーめんの様子。大変な盛況ぶりが見てとれる

―― 海外出店の流れをあらためて確認させてください。1992年(平成4年)に1号店を、バンコクのショッピングモールに出店されています。

 

タイと言えば世界屈指の観光立国です。首都のバンコク以外にもパタヤなど観光客が多く集まる場所も選択肢にあったのではないかと思います。

 

1号店をなぜバンコク、しかも路面店ではなく、ショッピングモール内に出店したのでしょうか?

 

中島:1号店を出店した場所はバンコクのシーロムという場所です。日本で言うと銀座(東京)に近い商業の中心地です。これからタイで事業していくにあたり商業の一番盛んな場所という理由でシーロムを選びました。

 

ですが、出店は難航しました。当時のタイにおいて8番らーめんは全くの無名です。ラーメンもなかったわけではありませんが、海外赴任してきた日本人向けのお店がほとんどで、タイの人たちには一般的ではありませんでした。

 

「名前も知らない企業の得体の知れない食べ物を売る店にシーロムのような一等地は貸せない」と貸主に言われたくらいです。

 

それでも「どうしても8番らーめんをやるんだ」と強い思いがパイサルさんにはあったようです。店舗の家賃20年分をなんと一括前払いしたんです。

 

 

―― え、家賃を20年分前払い? 20カ月ではなくてですか?

 

中島:はい。20年分です。「そこまで言うなら」とようやく交渉が成立し、タイ1号店であるシーロム・コンプレックス店を開店できました。

 

開店当時のタイ1号店(シーロム・コンプレックス店)。内装、器、テーブルに至るまでコンテナで日本から運び8番らーめんを再現した。キッチンを見せない設計が当時のタイでは一般的で、オープンキッチンの店舗はほとんどなかったが、1号店はキッチンを見えるようにして、掃除を徹底した上で衛生的なキッチンであるとアピールした

日本料理、および日本食のお店がタイのあちこちに今でこそ出店しています。しかし、ほとんど当時はなくて、周りの人からの理解も得られにくい状況でした。

 

そんな中でも、パイサルさんの行動は「8番らーめんを絶対にタイに広げる」との強い思いの表れだったのかと思います。シーロム・コンプレックス店から始まり、タイ国内で135店舗にまで現在では増えました。

「逆輸入」が起こり始めています

村中:ちなみに、日本の店舗数は119店舗(北陸は110店舗 ※取材当時の情報)です。タイの店舗数は日本を超えてるんです。

 

タイの店舗数がこれだけ増えてくると「逆輸入」のような状況も起こり始めています。

 

北陸出身ではない日本の方がタイ旅行の際に現地で来店され、日本に帰ってきて初めて北陸の店だと知っていただくケースが増えていますね。

 

―― 8番らーめんのファーストコンタクトがタイって富山県民の私からすると衝撃的です。北陸出身の方も来店されたりしますか?

 

中島:はい、いらっしゃいます。「8番の看板を見つけて思わず入店した。日本と変わらずおいしかった」とコメントを頂けることもあってうれしいですね。

 

―― こうしたやり取りが生まれる背景にはパイサルさんの壮大な覚悟があったのですね。

 

坂本編集長のコメント:名前も知らない・得体の知れない食べ物を出すお店には貸さないと突っぱねる貸主を20年分の家賃前払いで黙らせる交渉シーンは映画のワンシーンのようです。

 

8番らーめんがタイへ出店してからの苦労話が続きます。)

首都のバンコクから約160キロメートル南西にある、タイ湾に面したアジアを代表するビーチリゾート。かつては小さな漁村だったが、1960年代にリゾート整備が進み、世界中から観光客が訪れる場所になった。

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