利き酒師と酒蔵の社長で考える。日本酒の「ペアリング」の教科書(前編)。

2020.12.12

vol. 05

「玄」は富山県民のベースにある味。

 

坂本:他のお酒には、〈HARRY CRANES〉のどういった商品がペアリングできると思いますか?

 

例えば大吟醸酒などフルーティーな香りとさわやかな味わいのお酒は、いかがでしょうか?

 

中条:薫酒(くんしゅ)となると、まずは〈白えびスモーク ウイスキーバジル〉が考えられると思います。

 

下味にサンシャインウイスキーを使ってはいるのですが、こちらの商品にウイスキー感はありません。

 

シロエビの甘みが十分に引き出された、自然な味わいに仕上がっています。白エビそのものの味わいが引き出されるという意味で、薫酒に合うのではないでしょうか。

 

〈白えびスモーク ウイスキーバジル〉。写真は公式ホームページより。

坂本:こちらも池森さんの取材で習った話と、共通しています。

 

中条:〈スモーク はべん〉も、薫酒とのペアリングに適していると思います。

 

この商品は味が3種類あって、シロエビチーズ、昆布巻き、サクラマスがあります。

 

薄くスモークしているだけで、素材の味を生かしているので、薫酒の香りを邪魔しません。

 

坂本:「はべん」とは何ですか?

 

中条:かまぼこです。

 

〈スモーク はべん〉3種。左からサクラマス、昆布巻き、シロエビチーズ。写真は公式ホームページより。

坂本:蔵ステイ池森でも、吟醸酒には素材の味をそのまま生かした魚をペアリングするのでしたよね?

 

池森:そうです。

 

坂本:先ほど若鶴酒造からもらった日本酒一覧の表にも、シロエビの刺身、白身魚の刺身、カルパッチョなどが挙げられていました。

 

フルーティーなお酒の香りを殺さない、素材本来のおいしさを出している料理をペアリングするという基本が、よく理解できた気がします。

 

赤線はHOKUROKU編集部による。

ちなみに、池森さんから前の取材で、印象的な話がありました。

 

氷見にある髙澤酒造場の杜氏(とうじ)は、氷見の大吟醸を魚に合うようにつくっているという話です。

 

その意味で言えば、若鶴酒造のお酒は、基本的に何に合わせてつくっているのですか?

 

小杉:そうですね。繰り返しになりますが、日本酒はかなりペアリングという意味で、広角なお酒です。

 

 

ですが、一般論として聞かれれば、若鶴酒造のお酒も、総合的には魚に合うようにつくっていると言えるのではないでしょうか。

 

坂本:北陸3県は新鮮な魚が、身近に食べられます。内陸部と言ってもそれほど海から離れていないので、刺身を新鮮な状態で食べられます。

 

例えば石川県の山中温泉と言っても、山中と地名にありますが、橋立漁港からたいして離れていません。

 

そうした北陸の食環境に最適のお酒が、地元では盛んにつくられているのですね。

日本酒には魚の生臭みをカバー(マスキング)する力があります。

坂本:中条さんからもらった先ほどの資料では、米そのものの奥深い甘み香りと、うま味の強い醇酒(じゅんしゅ)は、ブリの照り焼き、かぶらずしから始まって、シーフードグラタン、ビーフステーキなど西洋料理にも合うと書かれています。

 

若鶴酒造の銘柄で醇酒と言えば、何でしょうか?

 

小杉:うちの醇酒は、苗加屋です。先ほどの表の中で言えば、一番右端の赤と青のラベルは、無ろ過生原酒です。

 

赤線はHOKUROKU編集部による。

坂本:無ろ過生原酒って何でしょう?

 

池森:タンクからしぼったお酒を、そのまま瓶詰したタイプのお酒です。

 

令和蔵に展示されるタンク。写真はイメージです。

坂本:どんな味がするのですか?

 

小杉:無ろ過生原酒に限らず、ほぼほぼ苗加屋全般が、「芳醇」とか「濃醇」とかいった表現で、評価をしていただいております。言ってみれば、どしっと重い感じです。

 

写真右手に見えるお酒が〈苗加屋 純米吟醸 玲橙(れいのとう)〉。ブランド名は、創業家が江戸時代、砺波郡苗加(のうか)という地で旅籠を営んでいた、その屋号である「苗加屋」から。写真:武井靖。

坂本:しっかりとした味の酒には、しっかりとした味の料理を合わせるという話ですね。

 

蔵ステイ池森では、ニョッキとオマールエビを絡めた料理ともペアリングさせると言っていました。

 

池森:はい。バターやホワイトクリームを使った料理にも適していると思います。

 

坂本:その意味で考えると、素人としての予想ですが、HARRY CRANESの商品でも、しっかりとした味わいの商品がペアリング候補になってくるのではないでしょうか。

 

中条:はい。例えば〈富山ビーフジャーキー〉です。

 

富山ビーフジャーキー。写真は公式ホームページより。

坂本:やはり、そうですよね。先ほどいただきましたが、かなり肉の味わいがしっかりと伝わってくるビーフジャーキーでした。

 

このしっかりとした味の食べ物に、重たい醇酒をペアリングさせるという考えが、なんとなく分かってきました。

玄は富山県で一番売れている普通酒。

坂本:さて、ここまで熟酒、薫酒、醇酒のペアリングを、HARRY CRANESとの関係で聞いてきました。

 

今回は池森さんは蔵ステイ池森のミニバーセットを、若鶴酒造の〈辛口 玄 銀ラベル〉と合わせようとしています。

 

 

いよいよ、この爽酒(そうしゅ)である玄とHARRY CRANESのペアリングを聞きたいのですが、素朴な質問として、そもそも玄というお酒は、どういった日本酒なのですか?

 

池森さんとの取材に同行してくれているカメラマンの男性が、物撮りをする時にお酒の銘柄を見て、「ああ、玄じゃないですか~」とうれしそうに言っていました。

 

大変恐縮ながら、私は北陸に引っ越してきた「もぐり」の北陸民なので、北陸における、あるいは富山における玄の立ち位置というかイメージが、ピンと来ないのです。

 

小杉:原料の酒米は100%富山県産です。のど越しが良く、さわやかな切れ味で、さまざまな料理に合わせられます。

 

温度帯も、さまざまな形で楽しんでいただけます。冷やして飲んでもいいですし、常温、熱燗(かん)でも味わいの変化が楽しめます。

 

熱燗においては〈全国燗酒コンテンスト2020〉で、お値打ち熱燗部門の金賞を取ったお酒でもあります。さらに言えば、公式資料がないのですが、玄は富山県でトップクラスに売れている普通酒でもあります。

 

坂本:そんなに売れているのですか?

 

小杉:はい。特に瓶ベースの普通酒で言えば。

 

坂本:それはすごい話じゃないですか。ちょっと大げさに言えば、玄は富山県民のベースにある味という話でしょうか?

 

小杉:そう思っていただいて結構です。

 

坂本:そこまですごいお酒だったのですね。池森さんがミニバーセットで玄を出そうとした理由が、よく分かりました。

 

池森:良かったです(笑)

 

 

坂本:では、中条さん、あらためて聞かせてもらいたいのですが、まさにミニバーセットのメニューづくりに直結する話として、例えばHARRY CRANESの中で言えば、玄との間でどのようなペアリングが考えられますか?

 

中条:玄を想定すると、玄は辛口のお酒で、特に魚に合うイメージがあります。

 

坂本:先ほども小杉さんから、若鶴酒造の日本酒は、全般的に魚に合うようにつくられているという言葉がありました。

 

中条:その意味で考えると、例えば〈スモーク幻魚(げんげ)〉のペアリングが提案できると思います。

 

坂本:幻魚と言われると、たぶん石川、福井の人は知らないですよね。

 

HOKUROKUは北陸3県のメディアなので、福井、石川の読者に説明すると、ちょっと前まで漁師さんに嫌がられていた、表面がヌメヌメの深海魚ですね。

 

今では高級料亭で重宝されています。

 

中条:はい。金沢港で水揚げされた北陸の珍味である幻魚を干してうま味を引き出し、丸ごと召し上がれるように、サクラの木のチップでじっくりとスモークしました。

 

坂本:あれ、石川でも捕れるのですね。じゃあ、知っているかもしれない(笑)

 

中条:パリッとした食感に、スモークの香ばしさが、かむほどに広がります。

 

ちょっとにおいが強いので、もしかするとペアリングという意味では狙いすぎかもしれません。

 

しかし、日本酒には魚の臭みをカバー(マスキング)する力があります。

 

その意味で、本来魚との相性のいい玄が、臭みもカバー(マスキング)してくれるので、意外なペアリングを楽しめるかもしれません。

 

坂本:そう言われると日本酒(料理酒)を家庭の料理に入れる理由は、臭みを取るためですものね。

 

〈Smoked 幻魚(げんげ)〉。写真は公式ホームページより。

中条:スモークナッツ with 能登塩は、常温か冷酒の玄とのペアリングが考えられます。海水でつくった塩をまぶしているので、すっきりと食べられると思います。

 

他には〈ライスクラッカー チーズ&アーモンド〉という米菓も、玄とのペアリングで相性がいいと思います。

 

チーズのこくが強い、こってりした味わいなので、こちらも爽酒に合うと考えられます。

 

〈ライスクラッカー チーズ&アーモンド〉。写真は公式ホームページより。

坂本:本当に爽酒は、特に玄は、スモーキーな幻魚からチーズ風味の米菓に至るまで、広範囲の料理に合わせられるのですね。

 

ここまでの中条さんの提案を通して、前の池森さんの話も踏まえると、私的にはペアリング論がちょっと理解できて来た気がします。

 

実際にミニバーセットをつくる池森さんからすれば、何かメニューづくりの方向性は見えてきましたか?

 

小杉:そこは、帰ってからじっくりとですよね、池森さん(笑)

 

池森:はい。お店に戻ってから考えます。

 

(副編集長のコメント:蔵ステイ池森と若鶴酒造の考える日本酒のペアリング論、前編は以上です。

 

ここからは、宿泊者限定のミニバーセットを、玄とHARRY CRANESのペアリングで、池森さんが考えます。

 

さらにその試食を、石川から日本酒の達人、下木雄介さんを招いて行ってもらいました。

 

試食会では下木さん節全開。冒頭からペアリング論を超えたマリアージュの話も出てきます。ペアリングではなく日本酒と料理のマリアージュとは何なのでしょう?

 

日本酒好きはもちろん、おいしい食事が何よりも好きだという人は、来週から始まる後編・利き酒師と酒匠で考える。日本酒の「ペアリング」の教科書。(後編)も、ぜひチェックしてみてくださいね。)

 

文:坂本正敬
写真:柴佳安
編集:大坪史弥、坂本正敬
編集協力:明石博之、中嶋麻衣

この記事を書いた人

Avatar

関連する記事

オプエド

この記事に対して、前向きで建設的な責任あるご意見・コメントをお待ちしております。 書き込みには、無料の会員登録、およびプロフィールの入力が必要です。