HOKUROKUの「考える技術」を読んで人気の建築家が考えた話。(アート思考編)

2021.05.26

vol. 02

思考をジャンプさせるアート思考。

金沢21世紀美術館の屋外に展示された〈カラーアクティビティハウス〉。

武井:特集「考える技術」には、中太閤山小学校の先生・福井のデザイナーである新山さん・富山のプログラマーである金子さんが登場しました。

 

この中でどなたかご存じの方は居ましたか?

 

小津:福井の新山さんとは、新山さんの母校である京都精華大学つながりで以前から知り合いでした。

 

過去に京都精華大学で私が教えていた時期とはずれているのですが、彼の先輩や先生に知り合いが居ます。

 

現在は福井駅前プロジェクトでも一緒に仕事しています。

 

坂本:すでにお二人は知り合いだったのですね。

 

小津:新山さんも特集で言っていたと思うのですが、デザインにはフォアキャスティングとバックキャスティングという2つの考え方があります。

 

どちらもデザイン思考によって問題を解決する際のアプローチの方法には変わらないのですが次のような違いもあります。

  1. フォアキャスティング・・・目の前の課題を対症療法的に1つ1つ解決し、現実的に積み上げて未来をつくる。
  2. バックキャスティング・・・目の前の課題を見据えつつも目標となる遠くのビジョンを先に定め、その目標に到達するための行動を起こす・促す。

福井駅には新幹線がこれから通ります。いわば福井にとっては100年に1度のチャンスなわけです。

 

新幹線の開業によって石川と富山に起きた大きな変化も福井の人たちは見ています。チャンスの大きさを前につい慎重になって、課題想定を1つ1つ並べがちです。

 

しかし私たちは10年後の「こんな福井がいい!」と思えるまちの絵を描こうとしています。

 

まずは絵を描き、描かれたビジュアルにどのような課題があるか検討しています。

 

坂本:どちらがいいという話では、もちろんないですよね?

 

小津:はい。ただ恐らくフォアキャスティング(現状の課題解決の組み合わせ)とは違った絵になると思います。

 

この話に関連して最近の学生に思うのですが、私の教えている金沢工業大学の学生たちに限らずどこの学生も時代の影響を大きく受けていると思います。

 

私たちの世代はバブルの時代もあり、都市とか世界とか「でっかい話」をしていました。住宅の設計なんてそれこそ下に見られていました。

 

世界に通用する・未来感があるなど大きいプロジェクトを目指していましたし、大きいプロジェクトに携わっている事実こそが自慢になりました。

 

しかしバブル経済が弾けると発想が一転して小さくなり、誰もが団地や住宅を喜んで設計するようになりました。

 

その流れの変化は今の学生にも当てはまります。現在はまちづくりをしたいという学生が多くなったのですが、そのまちづくりは身近な範囲での小さなまちづくりなんです。

 

なんとなく大きい話・大きいプロジェクトを目指したり語ったりしづらい風潮が残っている気がします。

 

もちろんその流れが悪いという話ではありません。ただ偏ってしまったなと思っています。

 

小津さんら(センボー・出田・AE5・ENN・ワダ設計共同企業体)によるJR芦原温泉駅西口駅前広場プロポーザル。優秀案として次点の評価を得る。画像提供:有限会社E.N.N.。

プログラミング的思考やデザイン的思考などビジネスに直結する論理的で構造的な思考法ももちろん大事です。

 

ただ「未来がこうなっていたらどうですか」と大風呂敷を広げるように、大きく視点を変えて思考をジャンプさせたり大きな問いを立てたりする技術も場面に応じて必要なのかもしれないと考えます。

 

いわばアート的思考のような思考法です。

 

武井:福井駅前の話に関連させて考えると、目の前のこまごまとした課題ではなくバックキャスティングによって大きな目標を描く、思考をジャンプさせる考え方も重要になってくるのですね。

 

確かにプログラミング的思考やデザイン的思考は積み重ねていく考え方です。

 

課題とは全く違うところから急に出てくる考えを拾うといった瞬間は、まずないと思います。

 

だからこそ思考をジャンプさせて初めて新しい視点が持てる、アート思考が大事になってくると。

 

小津:アートってよく分からないじゃないですか。特に現代アートを理解している方は少ないと思います。

 

現代アートにおいては美しい作品をつくる=表現活動・創作活動ではありません。むしろ単純に美しいだけの作品の方が少ないのではないでしょうか。

 

金沢21世紀美術館の屋外展示作品。写真提供:金沢市。

では現代アーティストが何をしているかというと世の中に「問い」を立てているのだと思います。

 

武井:もっと疑問を持ちましょうと。

 

小津:でもまぁ「問い」を立てるだけで解決はしてくれないのですが(笑)いずれにしても、その「問い」の深さ・影響力がアートの世界では評価されるのではないでしょうか。

 

坂本:横からすみません。問いを立てるとは具体的にどういう意味なのでしょうか。

 

例えば金沢21世紀美術館には〈スイミングプール〉という作品がありますよね。あの作品にはどういった「問い」が含まれているのでしょうか。

 

小津:私なりの解釈にはなりますが、「それって思い込みじゃない?」ではないでしょうか。

 

本来プールは水上から水面を眺めます。同じように予定調和にプールをのぞき込むと、水の中だと思っている水面下から人が見上げてくる。

 

一方で館内を歩いていくと気が付けば自分がプールの中に入っていて、今度は魚の目線になり誰かを見上げる・誰かに見られる立場になっているわけです。

 

あのプールは造形が特別美しいわけではありません。見た目はただのプールです。しかし視点のドラマティックな変化と思い込みの打破が驚きや面白さを生んで人気なのだと思います。

 

金沢21世紀美術館の〈スイミングプール〉。写真提供:金沢市。

また同じ金沢21世紀美術館の作品だと〈カラー・アクティヴィティ・ハウス〉があります(※記事冒頭に写真掲載)。屋外にある立体アートです。

 

建物に入らなくても触れられるので子どもたちにも人気です。

 

光の3原色である赤・青・黄のパネルが有機的に配置され、どの角度から見ても違う色が見えるようになっています。

 

現代アートではこのように「美しい絵を描きましょう」とか「格好いい彫刻をつくりましょう」ではなく、問題提起そのものが仕事になっています。それでいて答えがない。

 

鑑賞者は「問い」を持ち帰り、自分なりに解釈して生活の足しや変化にするという感じです。

 

武井:確かに現代アートは作品の「問い」を見付け出し、その「問い」に考えを巡らせる時間が楽しみの1つですよね。

 

デザイナーの友人と金沢21世紀美術館に訪れた時、まさに小津さんが言っていたカラー・アクティヴィティ・ハウスの前で友人は何十分もたたずんでいました。

 

きっと彼は何かの「問い」を受け取り、その「問い」に考えを巡らせていたのかもしれませんね。

 

(編集長のコメント:現代の芸術は変わったという話がありました。確かに近世まで芸術と美が分かちがたく結び合っていた時代がありました。

 

見る側は芸術家のつくった何かの美しさに快さを覚えるとともに、その美しさをつくり出した技術を素朴に褒め称えていた時代です。

 

その決まり切った形式やバランスの美しさではない、予定調和を覆す何かに価値や本質を求めた人たちが近代になると次々と現れます。

 

20世紀以降の芸術を振り返ると、思えば小津さんの言うとおり考えに考えて思考をジャンプさせたアーティストたちの時代とも言えます。

 

目の前の問題を解決するために論理的・構造的に考える技術だけでなく、思考をジャンプさせ新しい世界を切り開く「問い」を立てる、そんな思考法もあるのですね。

 

次はいよいよ最終回の第3回、小津さんの考える北陸の理想的な未来に続きます。)

この記事を書いた人

Avatar

オプエド

この記事に対して、前向きで建設的な責任あるご意見・コメントをお待ちしております。 書き込みには、無料の会員登録、およびプロフィールの入力が必要です。