HOKUROKUの「考える技術」を読んで人気の建築家が考えた話。(アート思考編)

2021.05.27

vol. 03

鑑賞者の態度を超えて批評性を持たないといけない。

イベントでマイクを持つ小津さん(写真中央)。写真提供:有限会社E.N.N.。

武井:これまでの流れでアート思考・「問い」を立てるという話が出てきました。ではそのアート思考はどうやって訓練すれば良いのでしょうか?

 

「アート」と聞くと一部のアーティストに許された特権的な才能のようにも思えるのですが。

 

小津:一流アーティストのような大ジャンプとまではいかないかもしれませんが、思考の飛躍は誰でも訓練すれば身に付くと思います。

 

具体的には何かに疑問をもったり評価したりするなど批評的な目線が大事だと思います。

 

ただ好きか嫌いかで終わるのではなく、なぜ好きなのか・なぜ嫌いなのか、全ての出来事を「ジブンゴト化」して考えていく。

 

学生にもよく話しますが、音楽が好きでミュージシャンのライブに行って楽しんでくるだけの人はだたの音楽ファンです。

 

音楽をつくりたい・プロミュージシャンになりたい人はそれでは駄目で、なんでこの人は自分の好きな音楽をつくれるのだろう・この歌詞がもっとこうならいいのになどと考えないといけません。

 

ファンとアーティストの線引きは明確にあって、その線引きが批評する目線だと思います。

 

武井:批判ではなく批評ですね。

 

小津:はい。文句ばかりを言う批判ではなく、建設的な態度に基づいた批評です。自分だったらこうする・自分はここが好きだとはっきりと言う、鑑賞者の態度を超えて批評性を持たないといけないと思います。

 

批評的な目線を貫いて「問い」を積み重ねていき、最終的に大きな「問い」を発見し、形にして発表できる人たちが現代アーティストなのだと思います。

 

先ほど話した小学校のドングリの話でも、こう言ったら先生に褒められるだろう的な感想より、ちゃんと自分の意見が言える目線を持つ姿勢が大事だと考えます。

 

そういう人って、どうしても変な人に見られがちですが(笑)

 

武井:確かにそうですよね(笑)北陸が同調圧力の強い地域だとすれば、まさに変な人と見られるリスクも高くなります。

 

批評的な目線を持つ人材も育ちにくそうですから、自分と他人の考えが違う=当たり前という価値観に初等教育から早く気付かせてあげる必要性がますます高くなってくるような気がします。

金沢はいまだに前田家100万石を食いつぶしている。

武井:それでは最後の質問とさせてもらいます。これまでの特集ではプログラミング教育を通じた富山県のまちづくり、デザイン思考を通じた福井県のまちの課題を聞いてきました。

 

ではデザイン思考、さらにはアート思考から見る金沢市の課題とは何でしょう。

 

小津:金沢市はいまだに前田家の100万石を食いつぶしているまちだと思っています。

 

以前と比べて外の人も入ってきていますが、まだまだ「村社会」的な部分があって絶対に染まらない旗を立てている人が居ます。

 

歴史あるまちだからこそステークホルダーがいっぱい居て、合意形成が同調圧力にもつながってしまっています。

 

その人たちを束ねに行こうとすると、それこそ普通の人が政治家みたいな考え方をしたり、たたかれたくなくて行動を控えてしまったり。

 

そうすると思考をジャンプさせて未来の想像もできなくなってしまいます。

 

ひがし茶屋街。写真提供:金沢市。

外から来た人はその点、客観視する目線を持っています。

 

特集にも書かれていた鯖江市のように、もともと金沢に居た人と外から来た人がうまく混ざり合えばいいと思います。

 

武井:鯖江市も最初から混ざり合ったわけではないみたいです。それこそ移住者が増えて当たり前になってきた段階で、地元の人たちに「移住者と何かしよう」という機運が高まってきたと新山さんは言っていました。

 

では外からの人が増えて風通しが良くなり、思考をジャンプさせて大きなビジョンを胸を張って描けるようになったとしたら、金沢は今後どうなればいいと思いますか。

 

小津:金沢は世界と直接つながるまちになればいいなと思います。少なくとも世界で知られるまちになっているといいなと。

 

海外で知られる日本のまちはまず東京です。次に京都が来て、不幸にも原子爆弾の投下された広島・長崎が続きます。その後に北海道・大阪でしょうか。

 

金沢市のまち並み。写真提供:金沢市。

金沢の人口は40万人ちょっとです。大阪市や京都市と比べると小さなまちですが、世界で同じくらいの人口規模の都市を見ると世界的に知られているまちがごろごろしています。

 

例えばリバプール(イギリス)・リヨン(フランス)、アメリカ人も大好きなポートランド(アメリカ)も60万人です。

 

北陸はすごく文化的で魅力ある都市が多いです。地域ごとの特色の違いも大きく、金沢と能登では違いますし。富山でも呉東と呉西でも違いますよね。お雑煮の食べ方もそうですし。

関連:福井・石川・富山のどこにある? 東西「お雑煮」の境界線。

同じ魚を食べようとしても調理法が違う。さらにその繊細な違いを理解できる味覚がある。

 

豊かな味覚は日本人にとって文化の最後の砦だと思います。週末にショッピングモールでご飯を食べ、味覚を統一化してはいけないのです。

 

プレゼンの上手い・下手といった違いはありますが、小さな差異で違いが分かる素晴らしい文化を守りながら、北陸の都市がもっと世界的に知られるように発信できればと思っています。

体は地域に密着して、頭は海外とつながっているのが理想。

小津:また発信と言っても単純に東京を目指すのではなく、世界をそのまま目指すような人やアイデアにも期待したいですね。

 

これまでは例えば東京に行って活躍した人が帰ってきたり、東京に出店して全国に広まったりという成功モデルがありました。

 

しかしこれからは東京を経由しないで北陸から、金沢からそのまま海外に出て活躍する人が出てきて欲しいですね。

 

最近では金沢21世紀美術館での展示が海外で評価されて、直接海外の美術館で展覧されるケースも出てきています。

 

もちろん海外で知られる=目的ではないですが、東京経由で活躍するしか道がない状況を変えたいです。

 

東京を経由してしまうと、そのワンクッションで地方の独自性が薄れ、地方の文化をそのまま発信しにくくなると思っています。

 

金沢21世紀美術館。写真提供:金沢市。

体は地域に密着して、頭は海外とつながっている個人がもっと増えれば理想的ですよね。

 

武井:そうなったら本当に素晴らしいです。東京を経由しない情報拡散のあり方はHOKUROKUプロデューサーである明石博之も過去に同じように発言していました。

関連:GNLの明石さん×BnCの山川夫妻と考える。「愛される場所」のつくり方。

SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)をはじめ、地方と世界が直接つながる可能性はどんどん広がってきています。北陸でもその波をつくれたらいいですね。

 

有意義なお話を本日はたくさんありがとうございました。

 

(編集長のコメント:海外で北陸の諸都市が全く知られていないという話。海外取材が多い私も痛感します。

 

海外の取材で人と会えばもちろん自己紹介します。「日本から来た」と言えば「日本のどこ? 東京?」と聞かれます。

 

「東京じゃない、富山だ」と言うと目の前の外国人は決まって中間的なほほ笑みを口もとに浮かべます。

 

「どこ、それ? 知らない」とは露骨には言えないけれど、何も言葉が出てこないので気を遣って暫定的なほほ笑みを浮かべ、間を埋めてくれるのですね。

 

位置情報を説明する上では「金沢の隣」とも言いますが、十中八九通じません。

 

結局は「日本に本州という本島があって、東京や名古屋・大阪などの大都市はその本島の太平洋側に位置している。その本島の逆側、日本海側に位置する小さなまちが富山だ」的に解説します。

 

東京や大阪との比較で「小さい」と言ったまでですが「人口はどれくらい?」と聞いてくる人も少なくないので、富山市の人口を41万人近くと教えます。

 

するとたいていの場合、相手は驚いて目をむきます。「全然小さくないじゃんか」とびっくりするわけです。

 

北陸の都市がもっと知名度を増せば、似たようなやり取りを全て省略できて実務的にも助かる人は増えるはず。

 

北陸から世界に直接出て活躍する人が増えれば、初対面の外国人との話題にも事欠かないのでさらに助かります。小津さんのような方がまさに世界に飛び出して活躍してくれるはずですから、楽しみに待ちましょう。

 

HOKUROKUの英語版も半ば放置状態。きちんと間に合わせなければと反省しました。小津さん、ありがとうございました。)

 

文:武井靖

写真:山本哲朗

編集:坂本正敬・大坪史弥

編集協力:明石博之・中嶋麻衣

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