イナガキヤスト×大木賢。「バズる」写真論。

2020.07.08

第3回

「自分はこう見ていますよ」と価値観を提示する。

撮影:イナガキヤスト。

坂本:「バズる写真論」としては構図の話も聞きたいです。何を入れて何を入れないか、構図の問題は何か意識されている点はありますか?

 

イナガキ:とりあえず立山連峰のような分かりやすいシンボルを構図の主題に選ぶようにしています。

 

最近は一部の方が僕を「本気の人」と呼んでくれています。「富山が本気を出した○○」シリーズの次の写真を期待して待ってくれている方も居ますので、分かりやすく魅力的な富山の風景の写真を投稿したい気持ちはあります。

 

 

一方であくまでも印象ですが、風景の中に人が大きく入っていると〈Twitter〉ではあまり「いいね」の数やリツイートの数は伸びない気がします。

 

大木:ああ、それは分かります。

 

坂本:イナガキさんの写真は望遠レンズを効果的に使って遠くの景色を手前に引き寄せ、現実の風景以上の迫力を引き出しています。

 

 

イナガキ:望遠レンズ13は確かに撮影で効果的に使っています。立山を見ていてすごいと思うのはまず大きさです。その「大きいんだよ」という感動を見せたいので望遠レンズが選択されていくイメージです。

 

坂本:一方では肉眼で立山連峰を見ると、これほど迫っては見えません。現実以上に奇麗な写真を私自身も今までライターとしていろいろな媒体で使ってきました。その自戒の意味も込めてしつこく聞いているのですが、この現実以上の迫力ある写真についてはいかがでしょうか。

 

大木:加工(レタッチ)の問題と一緒だと思います。写真を記録・情報伝達の手段として考えるのか、アート(表現)と考えるのか。

 

坂本:ではSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)では無条件でこの手の写真が許されると考えていいのでしょうか?

 

大木:うーん。むずかしい問題です。

 

イナガキ:少なくとも僕が写真を撮る時、これが今の富山・本物の富山だと伝えようとしているわけではありません。

 

あくまでも「自分はこう見ていますよ」と価値観の提示のつもりで撮影・投稿しています。

 

 

坂本:もちろん現実以上の奇麗な「映える」写真を撮り、自己顕示欲を示すツールとしてイナガキさんがSNSを利用しているなどとは私も一切考えていません

 

奇麗な加工や望遠レンズの効果、分かりやすい構図などに目を奪われがちですが、イナガキさんの作品は風景写真でも人物写真でも被写体に対する愛を感じます。

 

被写体を見るまなざしに愛が表現のベースに感じられるからこそ、多くの人に愛される「バズり方」をしているのかなと感じています。

「バズる」写真の投稿には、地名が大事

坂本:先ほど「富山が本気を出した」といったSNSの文章についての話がありました。

 

イナガキさんの写真が「バズる」理由は言葉選びのセンスにもあると思うのですが、文章はどのように考えているのでしょうか?

 

イナガキ:僕には文章のセンスがありません。だから毎回じっくりと考えます。そのうちに最近は「バズる」写真の投稿にとって地名がすごく大事だなと感じ始めています。何の写真であれ地名が入っていると、人の心に届く可能性が高まると思います。

 

大木:僕も地名は大事にしています。今まで「バズった」僕の写真はだいたい「海王丸」「富山」「京都」などの地名が入っています。

 

やはり地名を入れると共感する人が増えます。全国には届かないかもしれないですが。

 

 

坂本:イナガキさんの場合は県域を飛びこえ全国に届きましたよね。あの「富山が本気を出した風景」といった独特の言い回しにも何か狙いがあったのでしょうか。

 

イナガキ:先ほどもお伝えしたように「富山の本気の人」と最近は言われますが、別にこの表現を僕が考えたわけではありません。

 

富山をちゃんと撮りたいと思ったときに、すでに「富山の本気」「本気の富山」のハッシュタグ14がありました。

 

その言葉を利用して「富山の本気が撮らせてくれた」と書いたら反響がありました。その表現を多用しているうちに「本気を載せてる人」といった認知のされ方になっていきました。

 

坂本:「富山が本気を出した」のように、どうして地名を擬人化したのでしょうか?

 

イナガキ:投稿者が特別な有名人だったら別かもしれませんが、僕がどう感じたとの表現では別に誰も見に行きたいと思わないからです。そこで「富山が」と地名を主語にしてみました。

 

坂本:「タップしてね」の言葉はどうでしょうか? 私も最初に見て「何だ?」と思ってタップして、縦位置の写真に切り替わり、その上空に機影が入り込んでいる構図にまんまとやられました(笑)

 

イナガキ:順番にお話をすると長くなってしまうのですが、Twitterで写真を見てもらうために僕が必要だと思う点を意識しながら、いろいろテストして考えた結果になります。

 

具体的には「スマホ」のサイズに最適化した縦写真を撮っても、Twitterだとサムネイルは横写真になって写ってしまいます。どうやってタップしてもらえるかを考えた結果、あのキャプションが生まれました。

 

 

坂本:SNSに添える言葉はどれくらいの時間をかけて考えているのでしょうか?

 

イナガキ:1時間とかです。お風呂に入っている時間など一人になれるタイミングでじっくり考えています。

 

大木:僕も写真を編集しながら、タイムラインやトレンドを見つつ「どうしよっかなー」と考えていました。その時その時で必ずあるんですよね。「バズる」言葉って。

 

だからその言葉が見つかるまでじっくり考えて、テストを繰り返す作業がすごく大切だと思います。

 

(編集部コメント:次の第4回は投稿のタイミングについて。)

13 イナガキさん所有のカメラとレンズは、ソニーα7III、Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA、FE 24mm、F1.4 GM、FE 16-35 mm F2.8 GM、FE 24-105mm F4 G OSS、FE 135mm F1.8 GM、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS

14 SNSへの投稿内容を分類する言葉を添えて、見る人に探してもらいやすくするための機能。

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