「自分はこう見てますよ」という価値観を提示する。
撮影:イナガキヤスト
坂本:「バズる写真論」としては、構図のお話も聞きたいです。何を入れて、何を入れないか、構図の問題は、何か意識されている点はありますか?
イナガキ:とりあえず、立山連峰のような分かりやすいシンボルを構図の主題に選ぶようにしています。
最近は一部の方が、僕を「本気の人」と呼んでくれています。「富山が本気を出した○○」というシリーズの次の写真を期待して待ってくれている方も居ますので、分かりやすく魅力的な富山の風景の写真を投稿したいという気持ちはあります。
フォロワー数が5.1万人を超えました!!
最近は富山の写真で知って下さった方が多いと思いますが、普段は家族を撮ってます。
もちろん富山の写真も沢山紹介していきますのでこれからも見て頂けると嬉しいです😊✨
ありがとうございました!🙇♂️ pic.twitter.com/YO6G0u4e6I— イナガキヤスト (@inagakiyasuto) June 23, 2020
一方で、あくまでも印象ですが、人が風景の中に大きく入っていると、<Twitter>では、あまり「いいね」の数やリツイートの数が伸びないような気がします。
大木:ああ、それは分かります。
坂本:イナガキさんの写真は、望遠レンズを効果的に使って、遠くの景色を手前に引き寄せ、現実の風景以上の迫力を引き出しています。
富山が見頃です☺️✨ pic.twitter.com/Bf9FFvEudq
— イナガキヤスト (@inagakiyasuto) December 11, 2019
イナガキ:望遠レンズ13は確かに、撮影で効果的に使っています。立山を見ていてすごいと思うのは、まず大きさです。その「大きいんだよ」という感動を見せたいので、望遠レンズが選択されていくイメージです。
坂本:しかし、肉眼で見ると、立山連峰はこれほど迫っては見えません。私自身、現実以上に奇麗な写真を、今までライターとして使ってきた経験もあります。自戒の意味も込めて聞いているのですが、この現実以上の迫力ある写真については、いかがでしょうか。
大木:加工(レタッチ)の問題と一緒だと思います。写真を記録、情報伝達の手段として考えるのか、アート(表現)と考えるのか。
坂本:では、SNSでは、無条件でこの手の写真が許されると考えていいのでしょうか?
大木:うーん。むずかしい問題です。
イナガキ:少なくとも僕が写真を撮る時は、これが今の富山、本物の富山だと伝えようとしているわけではありません。
あくまでも、「自分はこう見てますよ」という価値観の提示のつもりで撮影し、投稿しています。
坂本:もちろん私も、現実以上の奇麗な「映える」写真を撮り、自己顕示欲を示すツールとしてイナガキさんが利用しているなどとは、一切考えていません
奇麗な加工や望遠レンズの効果、分かりやすい構図などに目を奪われがちですが、イナガキさんの写真は、風景の写真でも、人物の写真でも、被写体に対する愛を感じます。
表現のベースに、被写体を見るまなざしに愛が感じられるからこそ、多くの人に愛される「バズり方」をしているのかなと感じています。
「バズる」写真の投稿には、地名が大事
坂本:先ほど、「富山が本気を出した」といった、SNSの文章についての話がありました。
イナガキさんの写真が「バズる」理由は、言葉選びのセンスにもあると思うのですが、文章はどのように考えているのでしょうか?
イナガキ:僕には文章のセンスがありません。だから、毎回じっくりと考えます。その上で最近は、「バズる」写真の投稿にとって、地名がすごく大事だなと感じています。何の写真であれ、地名が入っていると、人の心に届く可能性が高まると思います。
坂本:少なくとも私には、文章のセンスがないようには思えません。むしろ、プロのような雰囲気を感じます。
大木:僕も地名は大事にしています。今まで「バズった」僕の写真はだいたい、海王丸、富山、京都などの地名が入っています。
やはり、地名を入れると共感する人が増えます。全国には届かないかもしれないですが。
坂本:それでもイナガキさんの場合は、県域を飛びこえ、全国に届きました。あの「富山が本気を出した風景」といった独特の言い回しにも、何か狙いがあったのでしょうか。
イナガキ:先ほどもお伝えしたように、「富山の本気の人」と最近は言われますが、別にこの表現を僕が考えたわけではありません。
富山をちゃんと撮りたいと思ったときに、すでに「富山の本気」、「本気の富山」というハッシュタグ14がありました。
その言葉を利用して、「富山の本気が撮らせてくれた」という風に書いたら、反響がありました。なので、その表現を多用しているうちに、「本気を載せてる人」といった認知のされ方になっていきました。
坂本:「富山が本気を出した」のように、どうして富山という地名を擬人化したのでしょうか?
イナガキ:投稿者が特別な有名人だったら別かもしれませんが、僕がどう感じたという表現では、別に誰も見に行きたいと思わないからです。そこで「富山が」と、地名を主語にしてみました。
坂本:「タップしてね」という言葉はどうでしょうか? 私も最初に見て、「何だ?」と思ってタップして、縦位置の写真に切り替わり、その上空に機影が入り込んでいる構図に、まんまとやられました(笑)
イナガキ:順番にお話をすると長くなってしまうのですが、Twitterで写真を見てもらうために僕が必要だと思う点を意識しながら、いろいろテストして考えついた結果になります。
具体的には、「スマホ」のサイズに最適化した縦写真を撮っても、Twitterだとサムネイルは横写真になって写ってしまいます。そこで、どうやってタップしてもらえるかを考えた結果、生まれたキャプションです。
坂本:こうしたSNSに添える言葉は、どれくらいの時間をかけて考えているのでしょうか? 先ほどは時間をかけるという話がありましたが。
イナガキ:1時間とか、です。お風呂に入っている時間など、一人になれるタイミングで、じっくり考えています。
大木:僕も写真を編集しながら、タイムラインやトレンドを見つつ、「どうしよっかなー」と考えていました。やはり、その時その時で、必ずあるんですよね。「バズる」言葉って。
だからその言葉が見つかるまで、じっくり考えて、テストを繰り返す作業が、すごく大切だと思います。
(編集部コメント:次は第4回。投稿のタイミングについて。)
14 SNSへの投稿内容を分類する言葉を添えて、見る人に探してもらいやすくするための機能。
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