工芸品と生活の近さ
―― 続きまして、イベントの名称に関して質問させてください。
〈GO FOR KOGEI〉というイベント名の中に「for」という単語が使われています。「to」が使われてもいい文脈だと思うのですが「for」にされた理由は何でしょうか。
直観として、旅行者に訴えかけるようなイメージがあります。
浦:まず、〈日本博〉事業の一環でこのイベントは実施されています。
日本博は、日本の歴史や伝統芸能、伝統工芸などを扱う地域へのインバウンド誘客等を目的とした事業です。
海外のお客さまの間で認知を上げたいとの狙いもあり、英語のネイティブスピーカーたちにも分かる単語を選びました。
「to」は場所を表す言葉です。工芸は場所になりません。数ある旅の目的から工芸を選んでほしいという思いを込めて「for」を選択しました。
―― やはり、旅行者への語り掛けがあるのですね。
坂本:翻訳家でもある私から補足させてもらいます。「to」も「for」も方向性(→)を意味する前置詞という意味では一緒です。
ただ、同じ方向性(→)を示すにしてもニュアンスが異なります。「to」の場合は、方向を示しつつ、目的地のターゲットに到達するニュアンスまでが含まれます。しかし「for」の場合は、方向性を示すだけで、ニュアンスに到達を含みません20
GO FOR KOGEIの場合、さまざまな評価の軸を持つ奥深い工芸世界(KOGEI)に向かって、とにもかくにも一歩を踏み出せと呼び掛ける、そんな言葉なのかなと感じていました。
―― キャッチコピーの「感情をゆらす、工芸の旅。」についてはどうでしょうか。
「ゆらす」の表現が印象的です。どのような作用を期待しますか?
「アートよりも工芸はより生活に取り込みやすいよ」と意図してるように私は思いました。
浦:単純な旅で終わりではなく、工芸をキーとして作品を直接見ていただき、工芸を通して生活が変わるような、暮らしに寄り添う展示会でありたいとの意図が含まれています。
―― 確かに、アート的な工芸から入って北陸の工芸品を見直すきっかけとなってほしいですし、旅先(お出掛け先)で買って帰る楽しみがが当たり前になってほしいです。
デザイン的にも色合い的にも最近の工芸品は暮らしに取り込みやすいです。生活に彩りを与えてくれる品も多くなってきています。
そう言った意味で、工芸を通じて生活を変えるきっかけとなる展示会であってほしいと私も願います。
草の根的な周知活動
―― 次に、どうやって現在までの認知を集めてきたのか、うかがってもいいでしょうか。また、今後どのように認知度をさらに高めて行く予定なのでしょうか。
もちろん、〈HOKUROKU〉のこの特集がその認知度アップに貢献できればと思っていますが、「地元にはなにもない」と感じる人の考えが変わるかもしれないGO FOR KOGEIのポテンシャルを思うと、本当にもっと知ってもらいたいと思っています。
工芸文化を経済に落とし込むにはそれこそ、かなりの人の動きが必要なはずですし。
浦:旅行雑誌に載せるなど一般の方への周知も、もちろん大事です。
しかしまずは、工芸・アート関係者の方々にわれわれの活動内容を知っていただきたいと考え、取り組んできました。
その結果、同業のアーティストやアート関係者にも少しずつ知ってもらえるようになって、工芸の見方が変わったとの評価も頂いています。
一方で去年は「コロナ」の影響もあり海外から人が呼べなかったので、ローカルの媒体に取り上げていただきました。それこそ、町内会の配布物で取り上げてもらったりもしました。
本物の体験価値をまずつくり、きちんと講評してもらう機会を設け、ローカルでも同時に取り上げてもらう草の根的な周知活動も行いました。これらが相乗的に効いてきているのだと考えます。
―― 講評を通じて、工芸に疎い人に指針を提示したからこそ、説明が分かりやすくなり、町内会の配布物にもできたのかなと思いました。
広報担当者として、何か言い足しておきたい話はありますか?
広報:そうですね。浦の話にかぶる部分が多いのですが、北陸に私も移住してきました。
北陸ならではの風景の面白さ、特殊さがそこかしこにごろごろしている、工芸品と生活の距離が近い土地だと感じます。
そうした特殊さをイベントで体感してもらえるように情報発信を心掛け、より多くの方に知っていただければと考えています。
いずれにせよ、従来の広告形態ではなく、地道な、手の届く範囲での活動が主体となっていますので、SNS(会員制交流サイト)にも今後力を入れたいと思っています。
浦:また、特別展の会場が北陸全体に展開しているので、移動の問題が当初からの課題でした。
そこで、地元の交通事業者さん・観光事業者さんと一緒に、どんな移動の方法が確保できるのか模索しながら「北陸」というブランドを高めたいと現在は思っています。
(編集長のコメント:町内会で取り上げてもらうっていいですよね。
工房見学イベント〈RENEW〉を主催する新山さんに取材した時には、小学校の配布物にイベントの告知を入れてもらったと言っていました。
地に足の着いた生き方を北陸でしながら、その北陸でイベントを仕掛けるのですから、告知や広告の仕方も、地に足の着いた方法が含まれていた方がいいのかもしれません。
HOKUROKUの認知度アップにも大いに役立てたいと思いました。
次は最後。そもそも論として工芸はどのように楽しむべきなのか、浦さん流の考え方を教えてもらいます。
浦さんご自身も工芸には疎かったとの話もありました。そんな浦さんがどのように工芸に親しんで、挙句の果てには工芸イベントを開催するまでに至ったのか。
その変化は、工芸に現在食指が動かない人の参考になると思います。
あとは、浦さんと広報の方が個人的に愛用する北陸の工芸品についても最後は話が及びますよ。
暮らしや生活を変える、工芸巡りの旅のお土産選びの参考にしてみてくださいね。)
オプエド
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