旅行者にとって県境は意味を持たない
坂本:私からもちょっと質問させてください。
これまでの話を聞きながらずっと気になっていたのですが、工芸の盛んな土地が北陸以外にもある中で、他のエリアと比べた時の北陸だけの良さと言えば、何があるのでしょうか?
浦:北陸の産地の方々は、マス向けの施策に右往左往せずに、自分たちらしい方向性を持っている気がします。
新幹線が今まで通ってなかった、冬に外に出られないなど、マイナスだと思われていた環境が逆に良い方向に作用し、落ち着いて工芸品をつくる環境が守られてきたのだと思います。
坂本:対象となる工芸の産地が、交通のどれだけ発達した場所にあるか、流通経済の波をどれだけかぶる土地にあるかで、産地の仕事にもやはり影響が出てくるという話ですね。
浦:福井まで延伸する新幹線についてさらに言えば「県を横断して連携していこう」という裏テーマも掲げています。
旅行者などからすると県境や市境はほとんど意味を持ちません。
交流人口の増加が望まれる北陸全体でブランド力を高めていければ、富山から入って福井で終わる、あるいは福井から入って富山で終わる1週間の滞在ツアーをつくれるのではと思っています。
相互理解でいい影響が各県に出てくる
坂本:「県を横断して連携していこう」という浦さんのテーマは、HOKUROKUの編集長としてシンパシーをすごく感じます。
ただ、ちょっと気になる点もあります。例えば、GO FOR KOGEIには、どのくらい富山の人間、福井の人間がかかわっているのでしょうか。
と言うのも、北陸へ引っ越してきて強烈に感じたのですが、金沢が中心となって北陸を引っ張っていこう意気込むほどに、抵抗を感じて素直に同じ方向を向かない人が居る気がします。
いい風に解釈すれば、郷土愛に支えられた対抗心とも言えますが、悪く言えば足の引っ張り合いです。
この感情は、石川県内にすら存在すると聞きました。金沢VS加賀・能登の構図みたいな。
すてきなイベントをせっかく仕掛けているのですから、この辺りの感情の問題を、どのようにクリアして北陸で一丸となろうとしているのか聞いてみたいです。
浦:私たちが企画する展示会の他にも、富山市の〈ガラスフェスタ16〉、高岡市の〈高岡クラフト市場街17〉、鯖江市周辺の〈RENEW18〉、越前市の〈千年未来工藝祭19〉などが北陸にはすでにあります。
そうした展示会の主催者の方々とも、積極的に連携させてもらっています。
例えば、少し前になりますが、富山市ガラス美術館名誉館長の伊東順二さんと仲良くさせてもらっていて、富山県内のいろいろな方を彼に当時ご紹介いただき、石川と富山を舞台にしたイベントを開きました。
その流れもあり、高岡クラフト市場街やガラスフェスタの実行委員会の方々にもGO FOR KOGEIにかかわっていただいています。
坂本:そのあたりの人脈づくりは、さすがですね。というよりも、工芸に関するイベントがそんなにたくさん北陸にはあるという事実にあらためて驚きます。
浦:金沢以外にも素晴らしい文化が北陸には多く残っています。
それらを丁寧に掘り起こして相互理解を進める中で、お互いにいい影響が出てくるといいなと考えています。
(編集長のコメント:「県を横断して連携していこう」という言葉がありました。
北陸に暮らしている人からすると、県境や市境によってエリアごとの印象が大きく違っているかもしれません。その違いよって、ちょっとした対抗意識だとか、上下の意識が生まれてしまうのかもしれません。
しかし、世界トップクラスの観光・文化都市と比べた場合、現状の金沢ですら単体では戦えません。
北陸各地が相互理解し、お互いにいい影響を与え合いながら、浦さんの言うとおり、1週間の滞在に耐えられるエリアに全体で成長できれば最高ですね。
さて、第4回の次は、イベントの名称決めやプロモーションのポイントなど、影響力のあるイベントを北陸で開きたい人にも役立つテクニカルな話を聞いていきます。
このイベント情報が、どこかのチャンネルを通じて、皆さんにも届きますように。)
17 人・食・まちを結び付けながら新たな魅力を生み出すまち一体型の工芸イベント。
18 持続可能な地域づくりを目指した工房見学イベントで、福井県鯖江市・越前市・越前町で毎年開催される。
19 人・技・地域を五感で感じる時空を超えた工芸フェスティバル。
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