北陸は先進地なので。GO FOR KOGEIで巡る「工芸 × 建築」のすすめ

2022.10.21

第5回

それぞれの目線で楽しんで

 

―― そろそろ約束の時間も終わりが迫ってきたので、浦さん流の工芸イベントの楽しみ方を最後に教えてください。

 

「GO FOR KOGEIに行こうよ」と身近な人に誘われた時「何が面白いの?」「どうやって楽しめばいいの?」という感情が食指の動かない人に働いている気もします。

 

せっかく工芸の豊かな土地に暮らしているのに、工芸に反応できない人が居るとすれば、このギャップをクリアする方法についても最後に話しておきたいです。

 

連載の第1回で取材させてもらった国立工芸館の唐澤館長は「工芸は、好きか嫌いか、どうでもいいかという視点で見る」とおっしゃっていました。

 

この工芸の見方について、浦さんは、どのように思われますか? 先ほどは、浦さんご自身も工芸の造詣がもともと深いわけではなかったとのお言葉がありました。

関連:国立工芸館の唐澤館長に聞く。北陸の「工芸を巡る旅」のすすめ

浦:唐澤さんのお考えに近いのですが、やはり直感を大切にしていただきたいです。具体的には「好きか嫌いか」が大事になってくると思います。

 

「人間国宝がつくった作品」という見方でも工芸の価値は測れますが、そうした既成概念にとらわれず、自分が好きか嫌いかで判断してみてください。

 

私は建築家です。建築を見る時も同じで、既成概念をあまり持たずに、目の前にある建築のどこが好きなのかを感じています。

 

直感を大切にしろと言われても日本人は少し苦手かもしれませんが、大事だと思います。

 

―― 具体的なエピソードを何かお願いできますか? できれば、GO FOR KOGEIに絡めていただけるとうれしいです。

 

浦:例えば昨年は、展示会場の1つである富山県の勝興寺で四代 田辺竹雲斎21氏の竹を使ったインスタレーション22を展示していました。

 

プレスリリースより。四代 田辺竹雲斎 〈WORMHOLE〉(勝興寺)写真:方野公寛

 

神社仏閣の比較的暗い空間で、どのように作家さんが作品を配置したのか、目に見えるままに注目してもらえればと思っていました。

 

「これは工芸なのか!?」と作品を見てまず思ったとすれば、そのままに感じてもらえればいいのです。

 

―― 私も昨年、勝興寺でその作品を拝見しました。

 

最初は、大きさで驚き、すごいなと感心していたら、人が中に入っていてさらに驚きました。

 

浦:あの作品についてよく聞かれた質問は「何人で、どれくらいの時間が掛かったのですか?」でした。

 

でも、あの壮大な作品のスケールを小さくすると、つくり方としては普通のかごになるんですよね。

 

スケールこそ違うものの本質的にはかごだと分かれば、私たちがよく知る日用品に、目の前の作品が近付いてきます。より身近に感じられれば、興味や質問が余計に出てくるはずです。

 

―― 大きさ・壮大さに反応して、その驚いた部分を掘り下げていくと、身近な道具に実はつながっていたと気付く。確かに直観が工芸に興味を持つきっかけとなっています。

 

浦:そういった驚きや直感を大事にしていただけば「こんな大きな『かご』をどうしてこの空間に置いたのか」など、作品と空間の関係性に思いが巡っていくかもしれません。

 

あるいは、身近な「かご」だと分かれば、素材や竹の編み方、漆の塗り方など技法的な部分に目線が移っていく可能性もあります。

 

技法を含めて工芸は語れる要素が多いです。直観を入り口に、驚きや好き嫌いの気持ちを掘り下げながら、それぞれの人に合わせた目線で工芸を見て楽しんでほしいです。

 

―― そういえば最近、バスケットの形をした籐(とう)の古道具を購入しました。確か、昭和初期に編まれたバスケットで、カメラバックとして使っています。

 

撮影:武井靖

 

今思えば、四代 田辺竹雲斎さんのインスタレーションを勝興寺で観ていた体験が、頭の片隅に引っ掛かっていたのかもしれませんね。

買わされたり好んで買ったり

坂本:私からも最後に質問いいですか?

 

工芸の体験の種類として「見る」「買う」「つくる」があると国立工芸館の館長が言っていました。

 

GO FOR KOGEIの体験は「見る」が中心になってくると思うのですが、北陸各地を巡る道中で感化されて工芸品を「買う」場面もきっと出てくるはずです。

 

そこで質問なのですが、浦さんが愛用している北陸の工芸品はなんでしょうか。買い物の参考までに。

 

ちなみに、国立工芸館の館長は、お昼ご飯を食べる際に輪島塗のおわんを工芸館の中で使っているとの話でした。

 

 

浦:そうですね、買わされたり好んで買ったりいろいろです(笑)

 

山中漆器のおわんを愛用していますし、九谷焼の作品も多いかな。

 

あと、この靴は和紙ですね、カジナイロン株式会社(石川県金沢市)さんの製品で、和紙糸を使ってつくった靴です。広い意味でこれも工芸かもしれません。

 

 

―― 和紙糸でできた靴とはすてきですね。後で調べてみます(笑)

 

坂本:広報の方はいかがでしょう?

 

広報:漆琳堂23さんの食器を普段の食事では使っています。ポップな色があってすてきなんです。

 

―― 漆琳堂さん!

 

昨年の〈RENEW〉で漆琳堂さんの食器を私も買って帰りました。

関連:RENEW × 立山Craftに聞く。地域を盛り上げる「人気イベント」の開き方

「これほんとに漆なの!?」と思ってしまうほどポップな色合いの製品も多いですよね! すごくすてきで私も愛用しています。

 

漆琳堂の食器。撮影:武井靖

 

広報:あとは、やはり九谷焼でしょうか。若手の作家さんによる最近の色使いの物が多いです。

 

坂本:最後は分かりやすい話で良かったです。

 

GO FOR KOGEIで北陸を巡る中で感化され、工芸に興味が出たら、何らかの工芸品をその道中でお土産に買う人が増えればいいですね。たくさんの工芸の産地が北陸にはある25みたいですし。

 

何か1つを手に取れば、工芸品がもっとほしくなるはずですし、日常的に買う人が地元に増えれば、それこそ「工芸文化が経済に落とし込まれる」のだと思います。

 

また、北陸各地の人を巻き込みながら、各県の相互理解を進め、北陸全体で価値ある体験を世界に打ち出していこうとするGO FOR KOGEIが、県境や市境に縛られがちな私たち北陸人の視野や行動を広げるきっかけになればと心より願っています。

 

北陸という広域で物事を発想し、行動する姿勢は、HOKUROKUも全く一緒です。ぜひ、お付き合いや連携を、今後ともよろしくお願いします。

 

広報:こちらこそ、よろしくお願いします。

 

浦:ぜひ、よろしくお願いします。

 

 

編集長のコメント:残念ながら大幅にカットしてしまったのですが、武井の専門分野であるデジタルと工芸の話もすごく面白かったです。

 

GINZA 45625〉や〈角川武蔵野ミュージアム26〉のようなデジタルアートの展示を中心とした施設が最近は全国で増えているだとか、北陸の金沢21世紀美術館でも〈NAKED meets 千利休27〉という展示会が直近であっただとか。

 

まだまだ全ての展覧会の1割にも満たないデジタルアートながら、確実に増えてはいるらしく、趣都金澤でも勉強会を開催しているようです。

 

このデジタルと工芸の関係については、ちょっと別の機会にしっかりと特集を組んだ方が良さそうなくらい、大事な話だと感じました。

 

北陸各県でもユニークな取り組みをすでに始めている人たちも居るみたいですし。

 

また、愛用する工芸品の話も最後に出てきました。普段から私が使う北陸の工芸品と言えば、高岡銅器の風鈴だとか、富山ガラスの酒器や写真立てだとか、越前焼のマグカップだとかでしょうか。

 

意識して集めているわけでもないのに、冷静になって振り返ってみると、身の回りに工芸品が意外にあるとあらためて気付きました。

 

GO FOR KOGEI2022の会期は10月23日(日)までです。話にも出ていた〈KUTANism 2022〉も10月15日(土)〜12月11日(日)に開催されています。

 

身近にあって実はすごい北陸の工芸を切り口に各県を巡って、豊かな文化の厚みをぜひ体感してみてくださいね。)

 

文:武井靖

写真:藤森祐治

編集:坂本正敬・大坪史弥

編集協力:明石博之・清水菜生

21 田辺竹雲斎(たなべ ちくうんさい)は、堺の竹工芸家で、代々襲名されている名前。四代田辺竹雲斎は1973年(昭和48年)大阪府堺市に三代竹雲斎の次男として生まれる。東京藝術大学美術学部彫刻科卒業後、竹工芸訓練支援センター(別府市)を経て帰阪し、三代竹雲斎の下で竹工芸を学ぶ。世界各国の美術館で展覧会やデモンストレーションを行い、作品も各地に所蔵されている。四代田辺竹雲斎を2017年(平成29年に)襲名。

22 展示空間を含めて作品となっていて、その場を体験しながら鑑賞する芸術作品。

23 福井県河和田で200年余り8代に渡って越前漆器を継承してきた漆器製造・販売のおわん専門店。

24 富山には、高岡銅器・井波彫刻・越中和紙、石川には、九谷焼・加賀友禅・輪島塗・山中漆器、福井には、越前焼・越前和紙・越前打刃物・若狭塗りなど、数多くの工芸の産地が北陸には点在している。

25 KDDIの新しいコンセプトショップ。

26 埼玉県所沢市にあるアート・博物・本の複合文化ミュージアム。

27 金沢の文化にも深く影響を及ぼす「茶の湯」を、再解釈したデジタルアート展。

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