暮らしの中で愛用する「道具と日用品」を北陸の人に聞いてみた(後編)

2021.07.27

第1回

全てが自然からの産物

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前編に引き続き後編でも北陸各地に暮らす「目利き」の人たちの愛用品が登場します。

 

日用品や道具を使った人(会社)にも見どころ・使いどころを聞き、ちょっと難しい言葉に関しては補足説明も加えました。

 

後編の最初に愛用品を教えてくれる人は東京の目黒から心機一転で富山に移住してきたデザイナーのナミエミツヲさん。

 

北信越に名をとどろかせる有名なイベント〈立山Craft〉や美しく健康になれる体験型施設〈ヘルジアンウッド〉のビジュアルを担当するなど、移り住んだ富山でも活躍されています。

 

そんなナミエミツヲさんが富山のある陶芸家を訪ねた際に譲り受けた器がまず登場します。

「何かをまとった食べ物を入れる何か」ナミエミツヲ(デザイナー)

写真提供:釋永陽

陶芸家・釋永陽さんの六角の小鉢

「釋永陽(しゃくながよう)さんの作陶を見学に訪れた時に、ご本人からいただきました。

 

釋永陽さんは立山町の虫谷に工房を持つ作家さんです。お父さまの釋永由紀夫さんも越中瀬戸焼をけん引する素晴らしい陶芸家で、立山町での縁に恵まれ今では家族ぐるみで仲良くさせてもらっています。

ある時、お父さまの由紀夫さんに登り窯を見せていただき、オーラを放つその存在に惹き込まれました。

 

普段から〈Apple〉製品を使ってあらゆる業務をこなしている私。故スティーブ・ジョブスも愛した由紀夫さんの作品が全て自然からの産物であると学びました。

 

土をこし、水と混ぜ、木を乾かし、火を起こし……。

 

長い時間と手間ひまを掛けて自然の中から産み出す仕事がなりわいになっています。

 

陽さんからプレゼントされたその小鉢は、まさにその登り窯から生まれてきた作品です。

 

頂いたときはめちゃめちゃうれしかったです。 オーラをまとった窯から生み出されたそれは何かをまとった物体として見えます。

 

食卓に並ぶ大量生産の器と並んだりすると『器』って何だっけと自分の概念に傷がつきます。」

「登り窯ってなんだ?」

 

陶磁器をつくる窯の一種です。

 

傾斜地の斜面を利用してかまぼこ型の窯を階段状に連結させてつくり、最下段の窯の火(熱)が上段の各窯の室内に伝わっていくように設計されています。

 

〈ブリタニカ国際大百科事典〉によると日本へは戦国時代に朝鮮半島から伝わったとされています。

教えてくれた人

イラスト提供:ナミエミツヲ

 

ナミエミツヲ(なみえ・みつを)さん。

「スカビ」ことsky visual works inc.代表。伝えるためのデザイン・ヴィジュアルコミュニケーションのご提案でブランド・プロジェクトの立ち上げを企画から見た目までデザインでお手伝いしています。「新しいブランドを立ち上げたい」「今のブランドを新しくしたい」というご相談にお応えします。公式SNSはこちら。HOKUROKUの特集「北陸がもっと好きになる。あの人の『本と映画と漫画』の話」にも登場する。

釋永陽さんにも聞いてみた。六角の小鉢はどんな器?

写真提供:釋永陽

 

「藁灰釉¹(わらばいゆう)六角小鉢は、この春に登り窯で焼き上げた焼き物です。

 

三昼夜、赤松の灰をよく被り、じっくりと焼き上げた結果、たまたま窯の内壁の破片が飛んで器の見込み²にくっ付いたので、窯たきを見学に来られたナミエさんに記念に差し上げました。

 

富山県の立山町でおよそ430年前から受け継がれる越中瀬戸焼を私は継承しています。

 

今も昔も変わらず立山町上末地区で採れる粘土や原料を仕立てて作陶しています。

 

日々の生活で愛用してもらえるよう手取りは軽く、なじみの良い寸法でろくろ成型しています。」

「越中瀬戸焼ってなんだ?」

 

〈大辞泉〉(小学館)によれば、

 

“前田利長が尾張瀬戸の陶工を招聘したことが起源と伝わる”(大辞泉より引用)

 

富山県立山町を中心とした焼き物の産地です。

 

加賀藩第2第藩主・前田利長が今の愛知県西部(尾張)で鎌倉時代から盛んな瀬戸焼の陶工を招いたために越中×瀬戸焼なのですね。

 

言うまでもなく越中とは今の富山県の旧国名です。

つくった人

釋永陽(しゃくなが・よう)さん

1976年(昭和51年)富山県立山町生まれ。京都府立陶工高等技術専門校修了後に個展活動を開始。2014年(平成26年)に立山町虫谷に工房を移す。窯元名は釋永陽陶芸工房。公式HP(https://shakunagayo.com/

 

編集長のコメント:六角の小鉢を見た瞬間に「まとっている」何かを写真ですら感じました。きっと非にならないくらい実物はうっとりとさせてくれるのでしょうね。

 

それにしても陶芸家の窯を訪ねて陶芸家から直接器を譲り受けるなんてぜいたくな話です。

 

国立工芸館の館長である唐澤昌宏さんも取材の際に言っていたように、北陸は産地が暮らしから近い場所。いわば身近に産地があるからこそ楽しめる道具や日用品との距離感もあるはずです。

 

ナミエミツヲさんのように気になる道具や日用品と出合ったら、そのつくり手を直接訪ねるなんて楽しみ方があっても北陸らしくていいのかもしれませんね。

 

次は、第2回。能登半島の根元と先端で宿を営む2人の経営者が愛用する道具が登場します。)

わらを焼いたわら灰を主原料とする釉薬(ゆうやく)。釉薬(ゆうやく)とは陶磁器の表面を覆うガラス質の部分。

茶わんや鉢の内面で鑑賞の場面でも重要な個所。

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