コピーライターでない人が「キャッチコピー」を自分の商売で考える時に考えるべき話

2022.02.02

vol. 01

質問が役立たず

はじめに

〈北陸コピーライターズクラブ〉の会長である宮保真(みやぼ・しん)さんに〈HOKUROKU〉編集長の私・坂本が今回話を聞きに行きました。

 

北陸コピーライターズクラブの公式ホームページから取材の問い合わせをして、代表で返信をくれた人が、金沢にある広告制作会社・合同会社ワザナカの社長でもある宮保さんです。

 

長さこそかなり違いますが、同じ文章を書く者同士、意気投合できる部分が多そうで、この取材は楽しみでなりませんでした。

 

ワザナカのオフィス

 

しかし、高速バスに乗って富山から宮保さんの暮らす金沢へ向かう間、モヤモヤをずっと感じていました。

 

下調べの上で事前に伝えた質問事項を車中で見返すと「なんか違うなー」と思えてきたのです。

 

デザイナーでない人に向けてデザインの基本的な考えを説いた〈The Non-Designer’s Design Book〉(邦題:ノンデザイナーズ・デザインブック)という本があります。

 

素人からすればつかみどころがなさそうなデザインの考え方をシンプルな4つのルールに落とし込んだ名著で、それらの決まりに従えば紙面デザインを今よりもあか抜けた見栄えに誰でもできるようになる、初心者向けの指南書でもあります。

 

そのコピーライティング版を宮保さんとつくれないかと思っていました。

 

しかし、その狙いを基に用意した質問内容を見直していると、何か落ち着かない気持ちになってきたのです。

 

どこかでよく見る、ありきたりな企画だなとの印象がまずぬぐえませんでした。さらに、質問のつくり方が根本的に間違っているとも感じます。

 

要するに、心がときめかないわけです。

 

 

宮保さんはプロのコピーライターです。受賞歴も豊富な腕利きのクリエーターです。

 

宮保さんの技術を学びたい若者たちもいっぱい居るはずです。

 

しかし、今回の思い描く読者の姿は、コピーライターになりたい人たちではありません。

 

自分の商売やイベントを広く人に知らせたい店主など、いわば「一般の人」に読んでもらいたいと思っています。

 

オフィスの1階では〈ワザナカフェ〉も運営する

 

身銭を切っているために失敗できないプレッシャーがある、客観的な視点を持ちにくい自分のプロジェクトに、なんとか客観性を持って効果的なキャッチコピーを考える、そのスキルを伝えたいわけです。

 

「他人のプロジェクトなら大胆に考えられるけれど、自分の商売はうまく考えられない。だから人に任せる」

 

といった趣旨の言葉を、HOKUROKUでかつて取材した野々市市(石川)の超人気カフェ〈HUM&Go#〉のオーナー・久木誠彦さんも言っていました。

関連:HUM&Go#の久木誠彦さんに「次のお店のつくり方」を坂上翔太さんが聞きにいく

難しいからこそ、自分のプロジェクトになんとか客観性を持って効果的なキャッチコピーを考えるスキルを伝えられないか。

 

そう思って、自分の用意した質問事項を読み返してみると「他人のプロジェクトにキャッチコピーを効果的に考えるプロの技術」を聞き出そうとする質問内容に終始していると気付きました。

 

簡単に言えば、全ての質問項目が役立たずだと行きのバスで分かったのです。

広告会社のカフェなのにキャッチコピーが見当たらない。

宮保真さんは、オフィスのあるビルの1階で〈ワザナカフェ〉というお店を開いています。

 

ワザナカフェ

 

公式ホームページ上で調べる限り、広告制作会社が運営するカフェなのに、キャッチコピーらしき一文が見当たりません。

 

ワザナカフェのホームページ画像

 

そこで、今回の取材では、一流のコピーライターである宮保真さんに、ご自身が経営するワザナカフェのキャッチコピーを考えてもらい、その思考プロセスを取材で追ってみようと考えました。

 

自らの商売にコピーを付ける宮保さんの考え方こそ、この記事で想定している読者の役に立つはずです。

 

プリントアウトしておいた質問事項を丸めてかばんにしまい、窓の外を見ると、高速バスが森本を過ぎたころでした。金沢駅前の高いビル群が遠くに見えています。

 

方向性がようやく定まったからか、取材前のワクワクを気が付けば感じ始めていました。

 

高速バスを香林坊で降り、竪町商店街を通って犀川方面に歩きます。

 

桜橋を渡り河岸段丘の坂道を上って寺町にある宮保さんの会社へ向かいました。

 

 

景観の変化がこの辺りは見事で、高低差を徒歩で行き来できる寺町一帯は、物書きにとって最適な場所だなと感じました。

 

ちなみに、金沢に伝わるあめ買い幽霊の舞台も寺町周辺です。

関連:北陸に伝わる怪談話。金沢の「子育て幽霊」編

この入り組んだ坂道や路地を宮保さんも盛んに歩きながら思索を深めているに違いありません。

 

 

次回からは、合同会社ワザナカのオフィス2階の会議室で宮保真さんと過ごした2時間半のインタビュー風景を紹介します。

 

コピーライターになるつもりはないけれど、自分の商売や活動にキャッチコピーを考える機会が少なくない人は、ぜひ最後まで読んでみてください。

 

 

副編集長のコメント:事前に質問を送っているのにもかかわらず、当日に全てボツにした坂本編集長。私なら、その場で取材を断るところです。宮保さん本当にありがとうございます。

 

実際にあった展覧会のキャッチコピーを基に、コピーライティングの一般的な進め方を次回はまず聞いていきます。)

宮保真さんプロフィール
1974年(昭和49年)生まれ。広告企画制作会社のワザナカ代表にして〈北陸コピーライターズクラブ〉(HCC)の会長。〈東京コピーライターズクラブ〉会員、〈日本ネーミング協会〉会員。〈石川県広報コンクール〉審査会審査員を2015年(平成27年)から務める。金沢市広報アドバイザー・宣伝会議主催〈コピーライター養成講座〉金沢教室講師。2019年(平成31年・令和元年)より〈宣伝会議賞〉審査員。

北陸で活動するコピーライターたちの団体。〈HCC賞〉審査会・〈北陸コピーライターズクラブ年鑑〉の発刊・HCC賞表彰式・年鑑発刊記念パーティ&新年会などを通じてコピーライターの親睦(しんぼく)を図る組織。

デザインの原則と応用を4つの原則で分かりやすく解説した不朽の名作。

主な受賞歴に、TCC新人賞・HCC賞・OCC賞・CCN賞・FCC新人賞・TOCCグランプリなどがある。

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