北陸がもっと好きになる。あの人の「本と映画と漫画」の話。

2020.06.04

第5回

とても豊かな場所に私たちは住んでいるのではないか。

〈コメ書房〉の立て看板。撮影:柴佳安。

最後のページです。冗舌な口上の一幕はもはや要りませんね。自然の恵みと人間の営みに対する思いを深められる作品をあつめました。

 

ことのは不動産株式会社・代表取締役の松本有未さん、〈和酒BAR縁がわ〉店主の下木雄介さん、〈コメ書房〉店主の高橋悠太さん、〈和倉温泉 多田屋〉6代目の多田健太郎さん、〈喜代多旅館〉3代目おかみの濱井憲子さん、〈美めぐりふくい〉事務局の小寺奈波さん、〈民宿ふらっと〉代表者の船下智香子さんが今回は教えてくれました。

「言葉のない対話を求めて能登に。」松本有未(ことのは不動産株式会社・代表取締役)

赤木明登〈名前のない道〉(新潮社)

「赤木さんの作品を開業時にいただいたのがきっかけでこのエッセイを手に取りました。

 

自然と交わり時空を越えて過去の人間の暮らしとつながれるような奥能登での生活とものづくりのことが静かに描かれています。」

こんな話。
“輪島在住の漆作家が、器とは、美とは、世界とは何かを、深く静かに思索したエッセイ。奥能登の海山にかこまれて家族と暮す日々を綴り、ときに旅先、記憶の情景を描く。”(新潮社のホームページより引用)

教えてくれた人。

 

松本有未さん。
1982年(昭和57年)石川県生まれ。金沢大学を卒業後、雑誌編集者や不動産会社勤務を経て、2014年(平成26年)にことのは不動産を開業。完全予約制の小さな不動産として金沢市内を中心に、不動産の仲介・活用企画の提案などを行なっている。

作品名:名前のない道
著者:赤木明登
出版社:新潮社
出版年:2012年(平成24年)
定価:本体1,900円

「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)。日本酒を通して日本の心を伝えてくれます。」下木雄介(〈和酒BAR縁がわ〉店主)

提供:Imakoko Media, Inc/Cebu Osani。

Erik Shirai監督〈THE BIRTH OF SAKÉ〉(Cebu Osani Creative & Imakoko Media)

「友人の吉田泰之くん1が映画をつくったと紹介を受けたのがきっかけでした。

 

美しい描写で日本酒を醸すという心理を伝えてくれます。」

こんなお話。
“ニューヨークを拠点に活躍する日系アメリカ人の映像作家、エリック・シライ氏が「手取川」醸造元である石川県白山市の吉田酒造店での酒造りとそこで働く蔵人のドラマを撮り続けたドキュメンタリー映画”(SAKETIMESより引用)

教えてくれた人。

撮影:坂本正敬。

 

下木雄介さん。
石川県加賀市山代温泉生まれ。2013年(平成25年)8月、石川県初となる日本酒と焼酎きき酒師の上級資格となる酒匠を取得。2014年(平成26年)9月、地元の加賀市で石川県の地酒をメインとした和酒BAR縁がわを開業するに至る。〈HOKUROKU〉の特集「利き酒師と酒匠で考える。日本酒の『ペアリング』の教科書。(後編)」にも登場する。

作品名:THE BIRTH OF SAKÉ
監督:Erik Shirai
制作:Cebu Osani Creative & Imakoko Media
公開年:2015年(平成27年)

「またやりなおすために。」高橋悠太(〈コメ書房〉店主)

北山耕平〈自然のレッスン〉(筑摩書房など)

「出合いははっきりと覚えていませんが、3.11後の数年間で読んだ本の中の一冊です。

 

“とりあえずいまの生活を/もうすこしましな方に/変えたいと考えているひとの/役に立つことを願って”(本書より引用)

 

つくられたという本書は、誰かがふと立ち止まった時、いつでも読まれるべきベーシックな一冊だと思います。

 

よほどの気概と余裕がないと都会暮らしでは生活に自然を取り込むことは難しいですが、この地方では比較的たやすくできます。

 

私たちはとても豊かな場所に住んでいるのではないか。そんなことを確認するきっかけにいかがでしょうか。」

こんなお話。
“自分の中にみずみずしい自然を蘇らせる“心”と“体”と“食べ物”のレッスン。自分の生き方を見つめ直すための詩的な言葉たち。”(筑摩書房のホームページより引用)

教えてくれた人。

撮影:柴佳安。

高橋悠太さん。
富山県南砺市旧井波町の農村にある納屋を改装したブックカフェ・コメ書房の店主。店のコンセプトは「百姓のくらし」です。

作品名:自然のレッスン
著者:北山耕平
出版社:筑摩書房、他
出版年:2014年(平成26年)
定価:本体820円

「宮崎駿さんが見たら絶対ここをモデルにした作品をつくりたいって言うと思うくらい地域のそのままの魅力を集めてます。」多田健太郎(〈和倉温泉 多田屋〉6代目)

提供:多田屋。

spfdesign Inc. November, Inc.制作〈のとつづり〉(多田屋)

「能登の目に見えない、近くにあり過ぎて感じにくい豊かさを『文化』『人』『お店』『風景』の4つの視点でつづったウェブサイトです。

 

撮影個所は私のお勧めもありますが、都市部の制作会社の方が調べて行ってみたい所や会ってみたい方を基本的にチョイスしています。

 

ここに行ってみたいと思うんだ!という気付きにもなり能登がさらに好きになると思います。」

こんなお話。
“世界農業遺産に登録された能登の“いま”を伝えようと、石川県能登半島の和倉温泉旅館「多田屋」6代目が各地を突撃取材。”(のとつづりのディスクリプションより引用)

教えてくれた人。

 

多田健太郎さん。
1976年(昭和51年)生まれ。地元の高校 → 立教大学 → カリフォルニアへ留学 → 日本に戻り広告代理店サイバーエージェントへ就職。退職後大阪で1年、東京で2年の営業活動を経て多田屋に勤務。趣味はトライアスロンとカメラ。

作品名:のとつづり
制作:spfdesign Inc. November, Inc.

「儀礼では果たせないもの。彼の地への旅路に人の尊厳を送り添える仕事。」濱井憲子(〈喜代多旅館〉3代目おかみ)

 

提供:桂書房。

青木新門〈納棺夫日記〉(桂書房)

「映画〈おくりびと〉のモデルとも言われる葬祭業オークスの社長さんの作品です。

 

風景がどうのはあまり出て来ませんが、淡々とした地方都市の日常の情景がとてもリアルでした。

 

青木さんの洞察はとても深淵なのですが『なぜわざわざ葬祭業なんて』という周りの声に、声高に正当性を主張するでなく、悩みを吐露したい訳でもなく、禅僧のする修行のように過ぎていく日々が書かれていたことが印象的でした。富山人らしい仕事への向き合い方だと思います。

 

ご自身の体験がベースとなっていますが、小説としての深みと余韻が素晴らしい作品でした。」

こんなお話。
“死体を洗い柩に納める、ふと気付くと傍らで元恋人がいっぱいの涙を堪え見ていた―人の死に絶えず接してきた人の静かなる声がロングセラーとなった。”(桂書房のホームページより引用)

教えてくれた人。

濱井憲子さん。

喜代多旅館3代目おかみ。第1話に既出。

作品名:納棺夫日記
著者:青木新門
出版社:桂書房
出版年:1993年(平成5年)(初版)
定価:本体1,500円

「司馬さんの視点で見る福井の歴史と風景を知ることで、より福井への愛着がわきます。」小寺奈波(〈美めぐりふくい〉事務局)

司馬遼太郎〈街道をゆく 越前の諸道〉(朝日文庫)

「前職の福井市観光案内所に勤務していた時に勉強のために買った本です。

 

福井県民や福井をよく知る人にとってなじみのある場所も、司馬さんの視点・知識を通してみると新たな発見があり、福井の素晴らしい場所や歴史について再発見できる本です。

 

約40年前に書かれた紀行文ですが、越美北線や平泉寺白山神社のコケなど当時も今も変わらない風景があることにほっとしたり、あらためて訪れたくなったりします。」

こんなお話。
“「越前の諸道」では九頭竜川の育てた肥沃な平野を往来しつつ、永平寺の隆盛と道元の思想を思い、「僧兵八千」を誇りながら越前門徒の一揆にもろくも敗れた平泉寺の盛衰を考える。平泉寺の菩提林では、十余年前に訪れたときと同じ老人に偶然再会する不思議な場面にも遭遇する。”(朝日新聞出版のホームページより引用)

教えてくれた人。

 

小寺奈波さん。
福井市の観光案内所勤務を経て、現在は北陸新幹線開業に向け福井県の「観光・商業活性化」を目的とし、福井を「美」で盛り上げる美めぐりふくいの運営に携わっています。

作品名:街道をゆく 越前の諸道
著者:司馬遼太郎
出版社:朝日文庫
出版年:2008年(平成20年)(初版)

「この美しい写真集は能登の宝です。鉄ちゃんだけなんてもったいない。」船下智香子(〈民宿ふらっと〉代表者)

提供:湯浅啓。

湯浅啓著・撮影〈能登線憧景〉(龜鳴屋)

「作者ご本人から出版時に直接ご紹介いただきました。

 

〈能登線憧景〉はのと鉄道の廃線前の1年間とその後をつづった写真集ですが、鉄道写真というよりは能登線というコンセプトを通して見せてくれる能登の写真集です。

 

写真1枚1枚がとても美しく、今となっては見られない景色やハッとする色・光・人々の笑顔であふれています。

 

その写真から見えてくるのは、美しい能登の自然とそれに向き合う能登の人の暮らし・温かさ・ユーモアなど。

 

ページをめくるたびに、湯浅さんの能登や能登で出会った人々に対する深い愛情があふれているように感じるのです。

 

廃線が決まってからあっという間に無くなってしまった能登線をちゃんとこうして残してくれている人がいてくれて良かった。

 

写真集なのに読むたびにうるうるしちゃうのは私が能登人やからかなあ。鉄道ファンじゃなくても手に取ってほしい一冊です。」

こんなお話。
“三年半前に廃線となった、のと鉄道・能登線。現役最後の一年から、廃線後の今までを綴った写真集。”(龜鳴屋の公式ホームページより引用)

教えてくれた人。

撮影:柴佳安。

船下智香子さん。
能登半島で1日5組の民宿ふらっとという小さな宿をやっています。夜は能登の魚貝や野菜、能登ならではの自家製の発酵食を使ったイタリアン、朝は能登らしい朝ごはんです。いしりやこんかイワシなども自家製で漬けています。

作品名:能登線憧景
著者:湯浅啓
出版社:龜鳴屋
出版年:2008年(平成20年)
定価:3,500円(税込)

(編集長のコメント:「北陸をもっと好きになる本や映画や漫画を教えて」とお願いすれば、すぐに答えてくれる人たちがこんなにも暮らしている北陸が私は大好きです。おしまい。)

 

文:回答者の皆さん・坂本正敬
カバー写真:柴佳安(yslab)
書影写真:大坪史弥・武井靖・坂本正敬
編集:坂本正敬・大坪史弥
編集協力:明石博之・博多玲子・中嶋麻衣

 

※クレジットが記載されていない書影についてはデータベース登録済みの書影を使っています。

1石川県白山市にある吉田酒造店の代表取締役。

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