〈HOKUROKU〉で前に組んだ特集で、北陸をもっと好きになる・北陸の見方が変わる本や映画、漫画などを紹介しました。

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その中で、福井の若狭町熊川宿を拠点に活躍する株式会社デキタの時岡壮太さんが、水上勉の小説〈弥陀の舞〉を紹介してくれていたので、遅ればせながら読んでみました。

 

物語の舞台は、越前和紙の産地である福井県越前市の五箇地域です。

 

越前紙とは、日本史でも最も古い時代から(1500年くらい前から)ずっと産出されてきた和紙で、公文書に使う最高級の公用紙(奉書紙)の分野では、その名が特に知られています。

 

その越前和紙づくりで中興の祖と言われる上林弥平と(作中では還暦前後)、その弥平の下で紙をすいて暮らす若い職人くみを描いた物語です。

 

もう、感動的な作品でした。

 

五箇の土地が舞台でなければ絶対に生まれない、風土と人の暮らしに深く食い込んだ物語が展開されます。作中の登場人物も、自分のからに閉じこもらずに、合理的な選択と行動の内側だけで生きようとしません。

 

まっとうな判断とは決して言えない状況に自ら、あるいは大きな意思や運命に翻弄される形で足を踏み入れるため、結果として各人の人生が大きくねじれていくのです。

 

小説のクライマックス、菩薩の群舞した日本画〈弥陀の舞〉づくりと、そのお披露目の祝賀式で訪れる運命の「再会」を書いたパートは特に印象的でした。

 

文庫版の解説で国文学者・村松定孝が、

”抒情性のみずみずしさと物語性の豊かさ”(水上勉〈弥陀の舞〉角川文庫より引用)

と評する水上文学の真髄が最高潮に発揮されています。

 

読み始める前と読み終えた後では、登場人物と同じく、読者の私たちも人生の立ち位置が少し変わってしまう、そんな感じがしました。

 

HOKUROKUでも今週の途中から〈日めくり格言〉でこの作品の名言を引用・掲載し始めます。

 

福井の人はもちろん、石川・富山の人も、まだ読んでいない場合は、ぜひチェックしてくださいね。

 

「これが文学を読む喜びなんだよな」

 

と、しみじみ読後に思わせてくれる作品ですよ。

 

HOKUROKU編集長・坂本正敬