• 富山の人はプリンをたくさん食べるって本当? 本当なら何で?

    ムシャムシャ。やっぱりプリンはおいしいなぁ。この焦がしカラメルが僕は好きなんだよなぁ。

    やれやれ。「スタバ」のフラペチーノの次はプリンか。また、飼育員にだまされていると気付かないのか? 愚か者め。

    そりゃ、どういうわけ?

    富山市に暮らす人間は、プリンの支出額が全国的に見ても高い。同じ北陸にあるこの動物園の飼育員たちには富山生まれの人間も多い。

     

    その背景を利用して、プリンをお前に食べさせ、見せ物にしようとしているのだ。繰り返すが「客寄せカバ」だ。人間の食べ物にうかつに手を出すなと言ったはずだ。

    え! 富山県人はプリンをたくさん食べるの?

    正確には富山市民だ。

     

    総務省の家計調査から、都道府県庁の所在市および政令指定都市ごとの1世帯当たり年間支出金額、ならびに購入数量(2人以上の世帯)を調べると、プリンの支出額が多い都市ランキングの上位を富山市は過去に記録している。

     

    具体的には、2014~2016年が2位、2015~2017年が1位、2016~2018年も1位だ。

     

    その後、2017~2019年が9位、2018~2020年が14位と最近は、少し順位を落としているがな。

     

    富山県の人口の半数弱が富山市民で占められているから、富山県全体でも似たような傾向かもしれない。

     

     

     

    ねえ。

    なんだ。

    ソウムショウって何?

    本筋ではない。聞き飛ばせ。

    分かった。

     

    なんであれ、どの年も富山市は、ランキング上位に入っているって話だね。これから出てくる最新版の調査結果にも注目だ。

     

    どうして富山県では、プリンの支出額が多いのだろう?

    富山県ではなく富山市だ。

    何が違うの? 県と市の違いが僕はまだよく分からないんだ。

    百科事典から引用すれば、市町村を包括する広域の地方公共団体が都道府県だ。

     

    まあ、今回に限って言えば富山市民、ニアリーイコール、富山県と言っても大きく間違いではないはずだがな。

    (ヒョウは、くるくる耳を回している。)

    ニアリーイコール? プリンの名前?

    富山市の人間がプリン好きならたぶん、富山県人全体もそう変わらないだろうという話だ。

     

    現に、富山市外を含む富山県在住の50人に対してプリンに関するアンケート調査を実施したところ、同様の結果も出ている。

    え。すごい。どうやって聞いたの?

    毎回、同じ質問をするな。

    ジャンプしておりを抜け出したんだよね。マスクをかぶって、ヒョウ柄のコートを着ている人間を演じて。でしょ?

    そうだ。少しは賢くなったか。その時は、鍵を使ったがな。

    ねえ、ヒョウさん。素朴な疑問があるんだけれど。

    なんだ。

    ヒョウさんって肉食動物だよね。

    今さらどうした?

    人間を食べたくならないの?

    見くびるんじゃない。そもそも、人間を襲ったヒョウの話もあまり耳にしないだろう。インドで人間を襲ったヒョウが居たと、海外の報道で耳にしたが。あれは、よほどの事情があったか、単なる異端児の突発的な暴挙に違いない。

     

    少なくとも私に関しては、山野を走り回る野生の動物の筋肉が好物だ。この園でも最近、屠体給餌(とたいきゅうじ)が始まっただろう。野生のイノシシなどの肉が食べられるようになったので、食環境はかなり改善された。

     

    なので、現代社会に暮らす、身体性を著しく欠いた人間など食の対象として興味がわかない。よほど、飢えていれば別だがな。

    で、50人には何を聞いたの?

    まずは「どのくらいの頻度でプリンを食べますか?」と質問した。

    プププ。

    なんだ?

    身体性を著しく欠いたとか難しい言葉を言っていたのに、質問内容が急にかわいくなって笑っちゃった。

    話をやめるか?

    ごめん。ごめん。

    その結果がこれだ。

    (紫:1年間でプリンを食べることはほとんどない)

    わぁ。半数以上が、1カ月に1回以上プリンを食べている!

     

    これって、他のまちと比べるとどうなんだろう。石川とか福井とか。それこそ東京とか大阪とか。

    残念ながら、他の都道府県の食回数までは調査を広げられていない。

     

    ただ、富山県人に関しては他にもいろいろ聞いていて「どのようなときにプリンを食べますか。(複数回答可)」なども聞いている。

    へ~。ちょっと意外なんだけど、人からもらった時に食べる人も結構多いんだね。半数近くじゃないか。僕と一緒だ。

    次の質問に対する回答も参考になる。

     

    へぇ! こりゃすごい。プリンを人からもらう方が多いと答える人は富山に40%も居るんだ! それって、すごいよね。

    他の都道府県と比較していないので何とも言えないがな。

     

    「人からプリンをもらうとうれしいか」との質問にも5段階評価も付けてもらった。1が「全くうれしくない」、5が「とてもうれしい」という評価だ。

    納得だね。うれしくないわけない。

     

    だってさ、毎月25日は、プリンの日に制定されているくらいだよ?

     

    プリンをもらうとニコニコ顔になるから毎月25日が、プリンの日になったんだって。〈Alexa〉が言っていた。

    Echo端末の頭脳となるクラウドベースの音声サービスか。お前は、いつの間に、そんなサービスを使っているんだ?

    えへへ。

     

    とにかく、富山県人は自分のためにも買うし、誰かのためにも買う。で、誰かにもらったら「とてもうれしい」と感じるなんて、本当にプリン好きなんだね。

    繰り返すが、他の都道府県で調査していないので、この割合(の数)が多いのか少ないのか比較できていないがな。

    で、人からもらう場合はいいとして、自分で買う場合、どこで買っているのだろう?

    その問いに対する答えはすでに判明している。

    え、これもびっくりだ。スーパーマーケットとコンビニは当然として、洋菓子店で買う人もこんなに居るんだ。これって、どういうわけ?

    「おばあちゃんが買ってきてくれるケーキ屋のプリンが好き」という意見もあった。

     

    その意味で、誰かにプリンを贈る際に、洋菓子店が活用されるシーンが想像できる。

     

    やはり、誰かに贈るとなれば、スーパーマーケットの量販プリンは適していないだろう。

    お気に入りの洋菓子店のプリンが世代を超えて愛されるみたいな現象もあるのかもしれないね!

    洋菓子店については面白い情報もある。NTTタウンページによると、人口10万人当たりの洋菓子店の数は、富山県(16.64件)が全国No.1だ。

    ええ! すごい!

    ちなみに、3位は福井県、4位は石川県だ。要するに北陸は、洋菓子店が多い土地だと分かる。ちなみに2位は長崎県だ。動物園・植物園〈長崎バイオパーク〉のある長崎だな。

    ちょっと分からないけど、洋菓子店の多さに関して言えば、すごい情報だ。

    洋菓子店が多い時点で、洋菓子の需要も多いと推測できる。洋菓子の一部としてプリンがあり、自分のために、あるいは誰かのために、プリンを買うという文脈が見えてくる。

    それにしても、ヒョウさん。なんでそんなにプリンについて熱心に調べているの?

    暇つぶしだ。

    暇つぶしを超えていると思うけれど……。

     

    本当は何か理由があるんでしょ?

     

    実は、山野を走り回る野生の動物の筋肉が好物とか言いながらヒョウさんもプリンが大好きだったりして。

    くだらない。ふと疑問を感じて、言い換えれば、疑問とその真相に誘惑されて、自然に体が動いただけだ。

     

    合理的な理由や損得勘定の見立てが立たないと動けないと言うのであれば、お前は野生を失った、それだけの話だ。

    まあ、いいや。で、この話って、洋菓子店の側も知っているのかな。

    この話とは、プリンの支出額が大きいという話か?

    うん。

    恐らく、少なくない洋菓子店が知っていると予想される。現に、私が質問をぶつけた2軒の洋菓子店が知っていた。

    え、どこ?

    まずは、富山県高岡市に本店を構えるレストラン&ティールーム〈フェルヴェール〉に行ってきた。

    あ! 富山駅のロータリーにもお店があるよね。組子(組子細工)入りの格子戸が印象的なお店。どうしてあそこに聞きに行ったの?

    よく知っているじゃないか。

     

    フェルヴェールは、卵本来の味を引き出すレシピにこだわってプリンやシフォンケーキをつくっているからだ。キャラメルカスタードプリンを皇室に献上した過去もある。

    すごいね。ところで、卵本来の味って何だろう?

    そもそもお店をオープンした背景に「卵本来のおいしさを広めたい」という願いがあったそうだ。

     

    鶏の気持ちを考え、ストレスの少ない飼育環境で生ませた、おいしくて健康な卵を使っている。

    へぇ~。すてきだなぁ。そのようなこだわりをもってつくるからこそおいしいプリンができあがるし、お客さんも買いたいという気持ちになるのだね。

    フェルヴェールでは、食べる人々の健康を願って、食品添加物を一切使わずにプリンなどの洋菓子をつくっていると補足しておこう。

    フェルヴェールの他には、どこに聞いたの?

    こちらは電話取材だが、2022年(令和4年)1月15日に富山市旅籠町でオープンした〈ぷりん専門店 田なか〉だ。

    あ、知っている! 行列ができていたところだよね? プリンの専門店なんて、すごく大胆だと思った。

    お店の人によれば、小さいころからお菓子づくりが好きで、いつかお店を出したいと思っていたそうだ。

     

    それで、お店を出すなら、子どもからおじいさん、おばあさんのような年配の人まで食べられるプリンを販売したいと考えたらしい。

    確かに、プリンは、子どもから大人まで食べられるものね!

    現に、年代・性別を超えてプリンが好まれる食べ物だとは、幾つもの調査が示している。

     

    ぷりん専門店 田なかに関して言えば、富山でお店を出すなら、支出額の多いプリンを販売しようと思ったそうだ。

    すごい話じゃない!

    それこそ鶏が先か、卵が先かは分からないが、プリンを好む人間が多く暮らし、その人たちに対し、おいしいプリンを出そうとつくり手が生まれる。

     

    そのつくり手の誕生によってますます、富山の人間はプリンを買うようになる。正のスパイラルだな。

    すごいな~。

    話のついでに、ぷりん専門店 田なかにも、プリンが富山で盛んに食べられる理由について考えてもらった。

    え、面白い。

    三世代で同居している家が富山には多い。その家族構成も関係して、プリンの支出額が多くなっているのではないかと言っていた。

     

    先ほども言ったがプリンは、男女・世代に関係なく好まれる食べ物だ。20代よりも、それ以降の年代の方が支出額は多いと読み取れる調査結果もある

     

    洋菓子店の本格的なプリンでなくても、スーパーマーケットやコンビニで、家族全員分のデザートやお菓子をプリンにすれば、それだけで買う量も増える。

    へ~!

    先ほどのNTTタウンページの調査では、冠婚葬祭を始め家族や人付き合いを大切にする土地だと、北陸を定義している。

     

    物を贈る機会が多い上に、幅広い年代の人間が1つの家に暮らしている土地柄だからこそ、誰でも食べられるプリンを選ぶ場面が多くなっているとも考えられるのだ。

    そういうことだったんだ~。ちょっと、僕なりに話を整理してみてもいい?

     

    世代・性別を超えたプリンの食べやすさがまずあると。

     

    で、富山県の場合は、1つの家で一緒に暮らす人の数が多い、さらに、近所や親せきなどと人付き合いも濃厚だから、普段のデザートとして、あるいはお土産や贈り物として、プリンが選ばれる場面も多いと考えられるんだね。

     

    買う人が多ければ、おいしいプリンを出す洋菓子屋も生まれるし、どんどん「プリン大国」になっていく。

     

     

    ところで。

    何?

    今日はやけに長話するじゃないか。先ほどから太陽がずっと照っているぞ。じりじり背中が焼けているようだが。

    ああ! すっかり忘れていた。プリンを想像していたら、ついつい話し込んじゃった。顔のニコニコが止まらない。

    口が大きいから元の位置にあごを戻す作業も大変だな。

    なんだか、急に背中が熱くなってきた。僕の肌はデリケートなんだ。

    やれやれ。そんなのは知って……。

     

    ん? きさま、情報提供の礼も言わずに水の中へ戻るのか。

     

    おい、水しぶきを飛ばすな。ああ、また、魚がお前の体をつつきに集まって来たじゃないか。

    気持ち良さそうな顔をして。鼻だけ出してこっちを見て笑っている。なめられたものだ。

     

    まあ、いい。なんであれ、この調査は、深掘りがまだできるはずだ。他の都市と比較して、どのような相違点や類似点があるのか、調べきれていない。

     

    あくまでも、富山だけを見て組み立てた仮説だ。

     

    スーパーマーケットやコンビニでの買われ方にも、他の都市と比べて何か違いがあるのかないのか。

     

    そういえば、北陸には〈HOKUROKU〉というウェブメディアがあったな。編集長らしき男が、私の写真ばかり連日撮りに来ていた。

     

    そこに「HOKUROKU特命取材班」という読者の疑問を解決してくれるコーナーもあると聞く。調査協力をお願いしてみてもいいかもしれない。

     

     

    関連:100年前のニュースに学ぶ。北陸の「スペイン風邪」365日

    文:野尻紗永
    イラスト:ノグチマリコ
    編集:坂本正敬
    編集協力:明石博之・武井靖

     

    参考:甘いもの大好き県は、富山県! – NTTタウンページ

     

     

    死んだ状態のシカなどの大型動物を、毛皮や骨が付いたままで動物園等の肉食獣に与える餌のあげ方

    令和2年国勢調査より。一般世帯の1世帯当たり人員は、多い順に富山県は全国第4位。

    デザートに関する調査 – https://www.vlcank.com/mr/report/012/

    プリンの消費支出 – 富士経済グループ https://www2.fgn.jp/mpac/_data/4/?d=18700