ほくりくアイドル部のプロデューサーと日本一のマジシャンで考える。THE「セルフ・プロデュース」論。

2021.10.28

vol. 04

「好き」を突き詰めれば似ていない人になる。

 

―――取材の前に下調べで読んだ本の1つに青山裕企〈クリエイターのためのセルフブランディング全力授業〉(玄光舎)があります。

 

本の中では、セルフブランディングのために、

  1. 自分の基本情報(名前や肩書、年齢、生まれ育った土地など)
  2. 職能(実績や技術、機材、道具、研究成果、作風、目標など表現や仕事をする上で必要な能力)
  3. 履歴(学歴や趣味、特技、性格、人脈などの自分史)
  4. 人の視点(見た目、外見、意見など人からの言葉)

以上の4つの情報をどんどん紙に書き出すと紹介されていました。こうした方法についてはどう思いますか?

 

ヤマギシ:紙に書き出す作業で言うと、自分の好きな分野、自分の特技、自分の前向きな性格などポジティブな情報ばかりを書き出してしまいがちです。

 

ですが自分の好きではない分野、自分の苦手な部分、自分の駄目な性格などネガティブな情報も一緒に書き出すといいと思います。

 

―――なぜでしょうか?

 

ヤマギシ:自分のこだわりや本心は、ネガティブに感じたり嫌だと思ったりする部分にこそ明確に表れるからです。

 

例えば僕には会社に勤めて挫折した経験があります。しかしその経験があるからこそ個人事業主としての生き方を考えられたわけです。

 

会社勤めが仮に「普通」で独立開業が「普通じゃない」としたら、会社勤めできる「普通の人」って僕から見るとすごいんですよ。

 

例えば「決断が遅い」と言うとマイナスに響きますが「物事の判断に慎重」とも言い換えられます。即断即決が求められる仕事や役職には向きませんが熟慮が必要な業務ではむしろ重宝されるはずですし。

 

そもそもの話として全ての人間は人類史上ただ1人しか居ません。誰もが唯一無二のすごい存在なんです。信念としてそう思っています。

 

だから「自分らしさ」を決める段階で他人との比較に終始し、ネガティブな面を過剰に怖がってしまうと、自分の可能性を消してしまう結果を招きかねないのですよね。

 

自分でネガティブだと感じる部分も見方を変えればポジティブになる。ネガティブな部分も含めて「らしさ」なのだと思えば惜しみなく紙に書き出した方が思わぬ発見があるはずです。

 

その話で考えると「自分らしさ」と「強み」は分けて考える必要があるのでしょうね。

 

「自分らしさ」を決める時は過度に人と比較する必要はなく、自分の知っている自分のポジティブとネガティブな面を両方見つめればいい。一方で「強み」を考える時は他人との比較や他人の意見を意識するみたいな。

 

―――確かに「強み」という以上「強弱」ですから他人との比較が前提となっています。「らしい」か「らしくない」かは自分自身との比較とも一方で言えそうです。

 

自分で自分をブランディングする際にコアとなる「らしさ」と「強み」は分けて考えた方が良さそうですね。

 

中新:僕の例で言っても、アイドル部のプロデューサーなのにアイドルが好きではありません。

 

現在のアイドルシーンはどんどん地下に潜っているというかコアな感じになっていますが僕はほとんど知りません。

 

だからこそ逆に皆の知っている「普通」のアイドルをプロデュースできると思っています。

 

似たような話として、ネガティブな部分をポジティブに転換するのではなく意図してそのまま残し、ポジティブな部分とミスマッチさせる面白さもあると思います。

 

もちろん大前提として、好きな何かが見つかったらそこに全力を費やした方が圧倒的に成功へ近づく、自分の得意を伸ばした方がいいと僕は考えています。

 

可能な限りやりたいことだけやればいいとアイドル部のメンバーにも伝えていますし、つらいと思うなら逃げてもいいと伝えています。

 

しかしその圧倒的に強みを伸ばしていく作業を大前提として考えるなら、ルイくんの言うウイークポイントや欠点をそのままリアルに見せて味にする方法もあると思っています。

 

写真提供:アンサー株式会社。

マジシャンなのに片腕がない。

―――先ほどから2人のセルフ・プロデュース論をいろいろ聞かせてもらっていますが、ロールモデルのような存在は誰か居るのですか?

 

ヤマギシ:ちょっと遠いところにロールモデルを置いてもいいのであれば、日本の新本格ミステリーの礎となった島田荘司(しまだ・そうじ)さんには影響を受けています。

 

いろいろな興味を持っている人で、例えば〈パリ-ダカール・ラリー〉を走るくらい島田さんは車が好きです。

 

都市論にも強い関心を持っていて、それらのモチーフが作品にも色濃く反映されています。

 

さらに島田さんはオペラも書いている。

 

無理やり何かを外側から持ってきていません。この人こそ自分の「好き」を追求した結果、誰にも似ていない作家になった好例だと思っています。

 

中新:生き方のロールモデルになる人だね。

 

ヤマギシ:ネガティブだとか欠点を味にする意味でのロールモデルで言えば、レネ・ラバンというアルゼンチン人のマジシャンが居ます。もう亡くなってしまったのですが。

 

レネ・ラバン。

 

―――どんな方なのでしょうか。

 

ヤマギシ:マジシャンとしてこの人は決定的なハンディキャップを負っています。マジシャンなのに片腕がないのです。

 

言ってしまえば複雑なマジックができません。しかしこの人の特長だと思う部分は語りです。すごくポエティックな語りをしながらマジックするのです。

 

これは僕の想像ですが、片腕がなくシンプルなマジックしかできない。だからこそ自分をいかにショーアップするか考えた時に、語りに行きついたのではないかと思っています。

 

興味深い事実として彼は、友人の詩人にマジックのせりふを書いてもらっている。外注による分業体制をつくっているんです。

 

中新:すごく面白いです。片腕が欠けてなかったらたどり着けなかった個性ですよね。

 

大事な部分を人に任せる世界観のつくり込み方も素晴らしいと思います。

 

できるだけ自分の作業をなくそうと僕自身もしている最中なので参考になります。

 

ライブ・リハーサルの様子。撮影:坂本正敬。

 

もちろん人の見極めは大事ですが、可能であればたくさんの人を巻き込んでバランスを取る、その作業が僕の仕事だと思っています。

 

活動の方向性がぶれずにコアの部分が守られる限り、どんどん僕が離れた方が皆のエッセンスやスパイスが入ってきて、アイドル部がより「おいしく」なっていくからです。

 

ヤマギシ:そうですね。もともと僕もバンドをやってきましたが、バンドは1人じゃできないじゃないですか。

 

そこで解散した時に1人でできる表現としてマジックを選んだ部分もあります。

 

このお店にしても1人でできるように接客の導線や照明のスイッチングなどを設計しています。

 

新型コロナウイルス感染症の感染拡大がオープン直後にあったので満足に営業できていませんが、とりあえずここまでは1人でやってきました。

 

しかしセルフ・プロデュースの限界は感じています。例えばお店の外装も、飲食店の専門家に任せるべきだったと今は思っています。

 

カフェっぽくないというかバーっぽくないというか。

 

 

今日のテーマはセルフ・プロデュースですが、セルフ・プロデュースにも当然、一定の限界はあると思います。

ブルーオーシャンは説明コストが高い。

―――中新さんにもロールモデルとなるような人は居ますか? あるいは影響を受けた人など。

 

中新:ライブハウス〈金沢vanvanV4〉時代の社長ですね。

 

―――印象的な言葉は何かありますか?

 

中新:いろいろあるのですが、セルフ・プロデュースに通じる部分で言えば「3人に話してから来い」とよく言われました。

 

何が無駄で何が足りないか人に話すと分かるじゃないですか。3人に話しているうちに言葉が自分のものになっていくというか。

 

その上で自分の伝えたい思いを1枚の紙に書いてまとめろとも言われました。

 

恐らくセルフ・プロデュースも一緒で、自分の伝えたい思いだとか見せ方が定まってきたら、そのコンセプトなりキャッチコピーなりを3人に話してみるといいのかなと思います。

 

ヤマギシ:確かに話しているうちにどんどん説明の仕方が整理されていきますよね。

 

―――ヤマギシさんも前にお会いした時「ブルーオーシャンは説明コストが高い」的な話をされていました。しかし必要に迫られて話をするたびに自分のビジネス紹介は洗練されていったのではないでしょうか。

 

ヤマギシ:確かにそのとおりです。

 

中新:このブルーオーシャンの話、事前にもらった資料にも書かれていたよね。もうちょっと詳しく説明してよ。

 

ヤマギシ:小説を愛するマジシャンとして金沢でカフェ&バーを開くとなると、同業者というかライバルは少ないのだけれど、逆に自分のサービスが何なのかを毎回最初から説明しなければいけないでしょ。

 

なので説明コストが高いなと。ただコストだと今は思っていなくて、まさに話をしながら洗練されてきたというか、毎回の説明で何を言えば相手が驚いて何を言えば刺さるのか、逆に何を言えば相手がぽかんとするのか分かるようになってきたから(笑)

 

―――これは、ある意味でセルフ・プロデュースの限界を打ち破るヒントかもしれません。

 

〈HOKUROKU〉で昔取り上げさせてもらった建築家も、思い付いたアイデアを自分の奥さんにまず話してみて、反応が悪ければ軌道修正を掛けると言っていました。

関連:GNLの明石さん × BnCの山川夫妻と考える。「人が集まる場所」のつくり方。

同じように自分の見せ方を決めたら、とにかく3人の前で話してみて、相手の食いつきを見ながら調整するといいのかもしれませんね。

 

(副編集長のコメント:他者にまねできないブランディングは競合が居ない一方、先人も居ないので容易に理解してもらえないわけですね。

 

唯一無二を目指しマニアックな分野を掘り進めたり組み合わせたりするだけでなく、他人が自分を紹介しやすい文脈を考える作業も大事みたいです。)

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