「イベント協賛の集め方」を学んで地元をもっと面白く(なめりかわランタンまつり × ベトナム航空編)

2024.08.11

第3回

主催側の視点:企業の決裁権者をリサーチする

 

―― なめりかわランタンまつり実行委員会の下村さん今日は、よろしくお願いします。

 

下村:あらためましてこのたびはご紹介、ありがとうございました。

 

―― こちらこそ、決まって良かったです。ますます北陸が盛り上がるきっかけになればと思います。

 

ところで先日、ベトナム航空の側から、特別協賛を契約するまでの意思決定と言うか、流れを聞かせてもらいました。

 

今日は逆に、主催者側の下村さんから見た契約締結までの話を聞かせていただき、北陸の読者に、価値あるコンテンツを届けられればと思っています。

 

そこで早速、質問なのですが、ベトナム航空の渡辺さんは契約までに、オンラインで2~3回の会議をしただけだと言っていました。

 

そんなにあっさりと物事は進んだのですか?

 

なんとなく素人のイメージとして、ベトナム航空の大企業を相手にすると、高層ビルのオフィスの一角で、タフな承認を何段階も潜り抜けるみたいなプロセスが待ち受けている印象だったのですが。

 

なめりかわランタンまつり実行委員会の下村豪徳さん 写真提供:下村豪徳

 

下村さんからも「いろいろ大変だった」みたいな言葉がありましたよね。大企業相手の面倒くささがあったのかなと勝手に勘違いしていました。

 

下村:打ち合わせの回数については、おっしゃるとおりです。

 

初回は、初めましての顔合わせで、スポンサードを検討しているとの話が渡辺さんの方からありました。

 

さらには、ベトナム航空が過去に、どのようなイベントに、どのような形で協賛してきたかなどをお話いただきました。

 

一方で、こちらからも、過去のフェスティバルについて説明させていただきました。

 

その中で、ベトナム航空さんの協賛のあり方についても話がありました。

 

ベトナム航空さんは協賛にあたって現金の支援はしない、航空チケットを協賛として出すという話です。

 

―― え、そうなんですか。スポンサー・協賛というと、現金による支援のイメージがあります。

 

今回も勝手に、それなりの額の現金による支援があったのかと思っていました。

 

下村:ベトナム航空さんは過去、全ての協賛で、現金による支援はされていないとの話でした。

 

―― でも、失礼を承知でぶっちゃけて言うと、直行便のない富山で、チケットだけ提供されても、あんまり意味がないと思うのですが(すみません、渡辺さん)

 

下村:まあ、いずれにせよ、2回目の会議では、ご提供いただく航空チケットがどの程度の価値なのかという話になりました。

 

1枚(エコノミークラス)30万円程度の価値があるとのお話です(※編集部注:変更・払戻し等、全てに対応できて、GW・年末年始などのピークを除き、時期を問わずに利用できるフレキシブルな条件が適用可能なタイプのチケット)。

 

ただ〈なめりかわランタンまつり〉は、協賛を過去に頂いたケースで、現金のご支援を頂いておりました。

 

航空券の提供があるのだから、その航空券で、ランタンの現地買い付けに行けばいいとの意見も内部にありましたが、現金による支援を希望する意見も内部から出てきました。

 

なめりかわランタンまつり実行委員の方々

 

さまざまな議論がある中で、時間だけがどんどん過ぎていき、契約書締結のタイミングが迫ってきます。契約書には、お祭りの名称も記載しなければいけません。

 

その中で、ベトナム航空さんにランタン寄付をお願いできないかとの意見が内部から出てきました。

 

 

「ベトナム航空さんのオリジナルランタンをつくってみてはどうか」とのアイデアで、ベトナム航空さんもその意見を面白がってくださって、300個のランタンを結果として用意してくださる話になりました。

 

もともと私どもも、予算をかけてランタンを買っています。

 

そのランタンを用意する費用の一部を、ある意味で、ベトナム航空さんに出していただけるのであれば、現金によるご支援と実質的には同じになります。

 

そこで、話がまとまり、われわれがもともと保持していた分の500個プラス、今年の分として新規購入を予定していた約200個に加え、ベトナム航空さんにも別途、300個のランタンを用意していただく形になりました。

 

―― 現金での協賛がないとの話から、双方の議論とアイデアを通じて、現金での協賛と同等の形に落ち着いたのですね。

 

これこそ、合意形成を目指した議論の模範的な事例だと思います。

 

他にも、議論を通じて変わっていった話はあるのですか?

 

下村:最初、ベトナム航空さんは、ブースを出店されない予定でした。

 

しかし、せっかくですし、こちらから「ブースを出店してほしい」とお願いし、最終的にはブースを出していただける話になりました。

 

ベトナム航空のブース

 

―― 確かに、なめりかわランタンまつり with ベトナム航空の名前なのに、ベトナム航空の人が会場に居ないと、ちょっと寂しいですよね。

 

ベトナム航空の人が居てくれた方が、来場者にとっても「おおー」って感じになるし、ベトナムがより近くなるというか、ベトナムに本当に出掛けたような感覚が、何目盛かでも増すような気がします。

 

なにしろ、非日常を求めて来場者は集まってきていると思うので。

「協賛(スポンサー)」「協力」「後援」の違い

―― 今回のコンテンツ制作では、北陸各県でイベントを主催しようと考えている人が、スポンサーを募る際に役立つ情報を出せればいいと思っています。

 

ただ、今回のベトナム航空との出会いはイレギュラーな感じですよね。

 

ベトナム航空の側からスポンサードを検討しているという話が舞い込んできたような状況なので、このコンテンツ自体も恐らく、ベトナム航空側の目線が、ちょっと前に出すぎてしまう懸念もあります。

 

その意味で、スポンサー企業に、主催者の側からアプローチしていく一般的な場面についてもプラスで、聞かせてもらえればと思います。

 

なめりかわランタンまつりのホームページなどを見ると、特別協賛のベトナム航空以外にも、さまざまな協賛者の名前が見られます。

 

かつては、富山県のプロサッカーチーム〈カターレ富山〉も協賛されていたと聞きました。

 

こういった企業については、下村さんの方から普段は、アプローチしているわけですよね。

 

下村:基本的にはおっしゃるとおりです。

 

また、なめりかわランタンまつり実行委員会とは別に、本業で私は、笑農和(えのわ)という農業コンサル事業を行っています。

 

「IT農業を通じて笑顔の人の和を創り社会に貢献する」をモットーに、富山県内で事業を展開している企業です。

 

そちらの自社イベントでも、自分の方から動いて、スポンサーを募るケースが多々あります。

 

―― ならば、この質問をする相手として最適な方だと思います。

 

なんであれ、イベントの主催者が協賛を探す際には「連絡」という作業が一般的には最初にありますよね。

 

このファーストコンタクトの際に、最も大事にしている作業はなんでしょうか?

 

なんとなくネット上で情報を拾ってみると例えば、プレゼンの資料のつくり方だとか、メールの送り方だとかが重要だと書かれています。

 

下村さんはどのようにこの点を考えるか、具体的に1つ、教えていただけると幸いです。

 

下村:「スポンサーになっていただきたい企業の決裁権者をリサーチする」です。

 

―― なんか、すごく大事な話のような気がします。

 

下村:どんなにいい企画をつくっても、決裁権者が駄目と言ったら、全てが白紙に戻ってしまいます。

 

まずは、決裁権者を知り、その方と面識を持ち、その決裁権者が期待する協賛のメリットを知り、戦略的にアプローチするといいのではないかと思います。

 

―― 今回の話で言えば、ベトナム航空の支配人が決裁権者で、その支配人の右腕が渡辺さんです。

 

その2人が、どんなメリットを協賛を通じて期待しているかを考え、そこに訴えるというイメージですね。

 

 

ちなみに、今さらなので、このタイミングで恐縮なのですが、下村さんのおっしゃる「スポンサー」という言葉と「協賛」という言葉は、同じ意味だととらえて構わないですよね。

 

なんとなくごちゃごちゃに使ってきていましたが。

 

下村:はい。同じです。そして、ご支援いただく金銭(物品等)の大小に応じて、ポスターなどに記載するロゴのサイズを調整し、協賛者さまの露出のお手伝いをさせていただきます。

 

―― ああ、いろいろなイベントでよく見るやつですね。

 

今、言われながら「協賛」の意味を調べてみたのですが、内閣府の情報にも、

“団体等が趣旨に賛同し、金銭又は物品等の支援などによりその実行を助ける場合”(内閣府の情報より引用)

とあります。「協賛」の定義に「物品等の支援」も含まれるとなれば、ベトナム航空のチケット提供やランタン提供の支援の仕方も、正当な協賛のあり方なのですね。

 

似た言葉の「協力」については、

“団体等による独自の活動など、趣旨に賛同し、経済的な援助以外によりその実行を助ける場合”(内閣府の情報より引用)

とあります。「後援」については、

“地方公共団体、マスメディアなど、趣旨に賛同し、応援・援助など上手く事 が運ぶように手助けをする場合”(内閣府の情報より引用)

とあります。その上で「協賛=スポンサー」と理解しておけば、私自身も整理が付いた気がします。ありがとうございました。

場が存在するから出会いが生まれる

―― そろそろ、インタビューの終わりの時間が迫ってきました。

 

今年は、なめりかわランタンまつり実行委員会が500+200で700個、ベトナム航空が300個のランタンを用意するのですよね。

 

1,000個のランタンが飾られるとなれば瀬羽町は、すごい状況になりそうです。私も、子どもを連れていってあげたいなと思います。

 

会場、および会場周辺にはさまざまな屋台も出店している

 

下村:今年のランタンまつりは、今まで以上に幻想的な雰囲気になると思います。ぜひ、お越しください。

 

―― あと、ベトナム航空がブースを出すじゃないですか。

 

そのブース運営を手伝うボランティアを、ベトナム航空CAのアオザイ風制服を着ながらやってくれる人を、ベトナム航空が探しています。

 

〈HOKUROKU〉のSNS(会員制交流サイト)でその募集の告知を始めているのですが問題ないですか?

 

下村:ベトナム航空さんがオッケーと言うのであれば、私どもは問題ございません。

 

―― 実は、HOKUROKU編集部内の人脈も使って募集していて、石川県金沢市に本社を構える三谷産業1という企業から、10日・11日のイベント両日に、ベトナム人・日本人従業員が各4名ずつ、ベトナム航空のブース手伝いに派遣されるとの話になってきました。

 

 

ちょうど、ベトナム航空の渡辺さんにつないだところなのですが聞けば、三谷産業は、ベトナム市場に30年前から進出していて、ベトナム事業が30周年を迎えるそうです。

 

一方で、ベトナム航空も日越就航30周年の節目で、共通点のある三谷産業とベトナム航空の縁が新たに始まる点も、なんだか個人的にはうれしく思います。

 

その根底には、なめりかわランタンまつり実行委員会の関係者が守り、育ててきたなめりかわランタンまつりという場が存在しているわけです。

 

やっぱり、場をつくるって、イベントのすごい部分ですよね。

 

フランスから来ていた観光客

 

場が存在するからこそ、こうしたさまざまな出会いが生まれるのだと思います。

 

本当に、価値あるイベントを主催してくださり、ありがとうございます。瀬羽町は個人的に好きなエリアでもありますし、非力ながら応援させていただきます。

 

下村:ありがとうございます。

 

―― それではそろそろ、インタビューも終わりとさせていただきます。今日は、お忙しい中で、貴重な情報をありがとうございました。

 

下村:こちらこそ、ありがとうござました。

 

当日の会場には「灯りのアーティスト」として活動しているランタン装飾担当の中澤泰一なども居ます。併せて、取り上げていただけると幸いです。

 

灯りのアーティスト・中澤泰一さん(右)岐阜県に生まれ、富山県魚津市に現在は暮らす。店舗、住居、小規模イベントなどの空間を灯りでプロデュースするアーティスト。表紙にも登場

 

―― ありがとうございます。当日は、中澤さんも訪ねさせてもらいます。よろしくお願いします。

主催者側の話まとめ

・現金の協賛でなくても、双方の議論とアイデアを通じて、現金の協賛と同等の状況に持っていける

 

・ファーストコンタクトの前には、スポンサーになってもらいたい企業の決裁権者をリサーチしておく

 

・決裁権者が期待する協賛のメリットを知り、戦略的にアプローチする

 

・支援を受けた金銭(物品等)の大小に応じて、ポスターなどに記載するロゴのサイズを調整し、協賛者の露出を手伝う

 

・「協賛」の定義には「物品等の支援」も含まれる

※編集部のコメント:決裁権者が期待する協賛のメリットを知り、戦略的にアプローチする。もうプロの世界ですね。

 

素晴らしいチームで、このイベントが開催されていると知れました。

 

HOKUROKUプロデューサーにして、まちづくり・場づくりを本業とする私・明石も同じく、相手のメリットを大事にします。

 

これこそれが、社会の役割分担で必要な観点です。ピタッと双方が寄り添える点を探す楽しさでもあります。

 

間違っても、直接的な経済価値で測るのではなく、相手の物差しで測った場合の価値を大事にすることを強調しておきたいです。

 

ベトナム航空のブース出店に協力してくれた三谷産業さんも、この記事で書かれていることそのものの流れをくんでいます。

 

坂本編集長から「誰かいない?」と聞かれて三谷社長にすぐに連絡を取ったところ「誰か行かせます!しかも業務で!」という返信が数分でありました。この場を借りて御礼申し上げます)

 

取材・写真・文・編集:坂本正敬

編集協力:明石博之・武井靖・高橋舞衣

取材協力:なめりかわランタンまつり実行委員会・ベトナム航空

1化学品、情報システム、樹脂・エレクトロニクス、空調設備工事、住宅設備機器、およびエネルギー の6セグメント で事業を展開する複合商社。東証スタンダード・名証プレミアの上場企業。1994年(平成6年)にベトナム事業を開 始し、現地グループ会社を現在は7社にまで拡大する。ベトナム人従業員数は約2,400人でグループ全体の7割を占める。

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