「イベント協賛の集め方」を学んで地元をもっと面白く(なめりかわランタンまつり × ベトナム航空編)

2024.08.11

第2回

協賛側の視点:協賛する意義はあるか

ベトナム航空の渡辺将吾さん

 

―― 渡辺さん、ご無沙汰しております。今日は、お忙しい中ありがとうございます。

 

渡辺:こちらこそ、よろしくお願いします。

 

本来は、ベトナム人の支配人が答えさせていただく予定でしたが、都合が付かなくなってしまったので、私が代わりに答えさせていただきます。問題ないでしょうか。

 

―― はい。もちろんです。恐らく、現場で動いた人は渡辺さんでしたでしょうし。

 

そこで、渡辺さん、大前提の部分を最初に確認させてもらいたいのですが、特別協賛が正式に決まったとの理解でいいのですよね?

 

渡辺:はい。決まりました。

 

ベトナム航空のロゴとロゴタイプが入った特別ランタン

 

―― 今回〈HOKUROKU〉の特集では、北陸各県でこれからイベントを立ち上げようと考える人たち・すでに立ち上げている人たちに、協賛の募り方と言うか、集め方、その作法みたいな部分を伝えられればと思います。

 

もちろん今回の件は、話の始まり方がちょっとイレギュラーなので、参考にならない部分もあるとは思います。

 

とはいえ、一国のナショナル・フラッグ・キャリアであるベトナム航空が、地方のイベントに特別協賛したわけです。

 

協賛の募り方、集め方を知りたい人にとっては、一定の学びがあるかと思っています。

 

契約までの経緯を言語化するようなコンテンツになると思いますが、問題ありませんか?

 

渡辺:分かりました。問題ありません。

 

―― では早速、質問させてください。最初は、契約成立までのプロセスについてです。

 

なめりかわランタンまつり実行委員会の下村豪徳さんから、ベトナム航空のスポンサーが決まったとの報告を頂いた時、

 

「いろいろ、大変でしたけれど」

 

みたいな言葉がありました。

 

もちろん、挨拶の一環みたいな感じで「大変でした」と言っているだけかもしれませんが、この「いろいろ大変だった」という部分は、ベトナム航空の側からすると、何を意味していると思います? 

 

個人的な印象として、ベトナム航空ほど大きな企業にスポンサーになってもらうとなると、まちの小さな企業に協賛をお願いする場合とは違って、いろいろ面倒で形式ばった手続きがあるのかなと思います。

 

それこそ、こぎれいな高層ビルのオフィスで、仕立てのいいスーツを着た顧問弁護士に値踏みされながら、小難しい契約を細かく結んでいくみたいな。

 

実際は、どうなのでしょう。

 

渡辺:そんな風におっしゃっていましたか。

 

恐らく、その「大変でした」は、弊社とのやり取りの中で感じたというよりも、主催者さま側の調整作業や根回しを意味しているのではないかと思います。

 

やはり、外資系の企業が入ってくると、良くも悪くも地域の祭りという側面を飛び越えてしまう部分があります。

 

その辺りについては当然、主催者さま側にも慎重な議論があったかと思います。

 

―― でも、ベトナム航空と実行委員会の側のやり取りは、何度も何度も議論を重ねて、分厚い契約書にサインしてという感じなのですよね。

 

渡辺:いいえ。オンラインで2~3回、打ち合わせをさせていただき、契約書を結んだ感じです。

 

―― え、そんな簡単な感じなのですか? 2~3回、しかもオンラインで。

 

渡辺:はい。

 

―― でも、その間、当然双方に、もっとこうしてほしいみたいな激しい綱引きはあるのですよね。

 

渡辺:そこは当然、ありましたが、激しい綱引きという感じではなかったと思います。

 

ただ、先ほどの「大変でした」という話で言えば、祭りの名称の問題は確かに、主催者さま側にご迷惑を掛けてしまったかもしれません。

 

今回のお祭りの名称は〈なめりかわランタンまつり with ベトナム航空〉です。

 

 

しかし、うちの支配人が途中で「with ベトナム航空では弱すぎる」と言い始めて、ベトナム航空の名前が先に来るような名称を希望しました。

 

もっと、名前が前に出ていれば、新聞やテレビなどに報道される際に、ベトナム航空の名前がより、露出する可能性が高いからです。

 

ただ、この点は私自身も「会社の名前が出すぎては良くない、地域の祭りが、ベトナム航空の祭りになってしまう」と支配人を説得しました。

 

なので「with ベトナム航空」で良かったのだと思います。

 

巡り巡っていい影響が期待できる

―― 「支配人を説得」との言葉がありました。

 

そこで聞きたいのですが、この協賛の話自体は、どのような形で意思決定が社内で行われたのですか?

 

やはり、最終的な意思決定権者は支配人なのかなと思いますが、それまでに、何段階もの承認プロセスがあるのですよね?

 

渡辺:いえ、そうでもありません。

 

ベトナム航空日本支社の場合、日本でのイベント協賛については、日本支社内で意思決定が行われます。

 

具体的には、私から支配人に提案し、支配人が決定するというプロセスになります。

 

―― え、それだけですか? これも意外です。言ってしまえば、2人だけで決めると。

 

渡辺:はい。そもそも日本支社には、そんなにスタッフが居ませんから(笑)

 

―― では、どうして支配人は今回、協賛を決定したのでしょうか。

 

意思決定をするにあたって、どのようなポイントが評価されたのでしょうか。意思決定に至るまでの思考のプロセスを知りたいです。

 

渡辺:ベトナム航空にとって、スポンサードする意義があるかどうかが当然、重要になります。

 

もっと平たく言うと、ベトナム航空を利用してベトナムへ行く日本人が増えるかどうかです。

 

―― でも、その話で行くと、直行便のない富山の地域のイベントに協賛しても、あまり効果がないと思いますが、どうなのでしょう。

 

たぶん、お隣の小松空港(石川県)にもないですよね。自分で紹介しておいて変な言い方ですが。

 

渡辺:おっしゃるとおりです。

 

なめりかわランタンまつりに協賛してメリットがすぐに出てくるのか、ベトナム航空を使った日本人のベトナム旅行者がすぐに増えるのかと聞かれれば、たぶん難しいのではないかと思います。

 

現に、外資系企業の航空会社が地域のイベントをスポンサードしたという話は聞いた覚えがありません。

 

恐らく日本で、初めてなのではないでしょうか。

 

ただ、日本支社のミッションとして、日本人のお客さまにベトナム航空を利用していただく、ベトナムに足を運んでいただくという目標があります。

 

そのためには、日本人に注目してもらわなければいけませんし、日本人が集まるイベントに露出を増やしていかなければいけません。

 

とはいえ、とにかく露出を増やせばいいという話でもありません。例えば、富山県で有名なお祭りとして〈越中八尾 おわら風の盆〉がありますよね。

 

単純な露出という側面だけで考えれば「おわら」に出た方がいいのかもしれません。

 

しかし「おわら」に露出したところで、ベトナムへ行く日本人を増やせるのかと言えば疑問です。

 

一方で、なめりかわランタンまつりは「おわら」ほどの露出は見込めないかもしれませんが、ベトナムランタンを使った祭りを実行委員の方々は展開されています。

 

似たようなランタンフェスは他にも存在しますが、ベトナムランタンを使った祭りという意味では、全国で唯一に近い存在だと思います。

 

すごくごう慢な言い方をお許しいただければ、弊社のネームバリューがそこに入れば、なめりかわランタンまつりがさらに一皮むけて、よりグレードアップしたイベントに成長していく可能性があるかもしれません。

 

イベントの規模が大きくなれば集客力も高まります。集客力が高まれば、ベトナムランタンの魅力がより多くの人に伝わります。

 

フランスから来ていた観光客

 

ベトナムランタンの魅力が伝われば、本家のホイアンのランタン祭りにも行ってみたいという人が増えるかもしれません。

 

直接的にはすぐ、メリットは出ないけれど、巡り巡っていい影響が期待できる、その辺りを支配人は納得したのだと思います。

 

―― とはいえ、スポンサードした以上はシビアに、何らかの検証はするのですよね?

 

渡辺:なめりかわランタンまつりについては現時点で、スポンサードを来年以降も続けさせてもらえればと考えています。

 

それだけ本気で考えているからこそ、続ける価値があるかについて、主催者さま側とイベント後に、振り返りをさせていただければと思っております。

 

―― 具体的には何を振り返るのですか?

 

渡辺:目に見えるメリット・目に見えないメリットの双方を、主催者さまのご協力の下で振り返れたら幸いです。

 

「目に見える」とは、オフィシャルデータです。どこまで出していただけるかは分かりませんが、来場者などのデータを、出していただける範囲で確認させていただければと思っています。

 

―― 「目に見えない」とは何ですか?

 

渡辺:いつもよりも活気があったかどうなのか、来場者の反応はどうだったのかなど、目に見えない、数字になりにくい部分です。

 

第1回、第2回と関係を積み重ねていく中で、きっかりとレビューを繰り返しながら、どんなイベントに育てていけるのか、一緒に考えさせていただければと願っています。

協賛者として出ていく価値を試算

―― 今回の契約の狙い、意思決定のプロセスなどはよく分かりました。

 

当然ながら、この意思決定は当然、他のイベントでも同じなのですよね。

 

今回は、HOKUROKUがたまたま、1つのきっかけとなって両者をつなぐという形になりました。

 

ただ、普通は、イベント主催者の側から、企業などに協賛の依頼が届くのかと思います。

 

その時も同じプロセスで、協賛するかしないかを決めると考えていいですか?

 

渡辺:はい。基本的には。

 

―― ちなみに、ベトナム航空に「協賛してほしい」「スポンサードになってほしい」という依頼は、どんなところから来るのですか? さらに言えば、どんな風に来るのですか? 

 

ベトナム航空ほどの大企業には、パワーポイントでつくったおしゃれな資料と共に、練りに練ったボディコピーみたいな文章が、スーツを着た人たちからメールで届くみたいな印象があります。

 

渡辺:さまざまです。

 

過去の実績を奇麗に並べてくる、慣れた印象の方もいらっしゃれば、それこそ、日本に暮らしているベトナム人コミュニティから、旧正月の祭りを地元で開催するのでスポンサードしてほしいという依頼までいろいろ頂きます。

 

―― 練りに練った、ビジネスライクなアプローチと、地元コミュニティーのカジュアルな相談、どちらの方が、スポンサードにつながりやすいのですか?

 

渡辺:一概に言えません。先ほどの話に戻りますが、スポンサードする意義が最も大切になります。

 

もちろん、ベトナム人コミュニティ主催の旧正月の祭りにも今まで4件、協賛として航空券を出しています。

 

ただ、私たちの最大のミッションは「弊社の航空会社を使って、ベトナム旅行を楽しむ日本人を増やす」です。

 

日本に暮らすベトナム人たちからすれば弊社は、すでに知られた存在です。

 

協賛として出ていく価値を試算し、その上で意思決定をしています。

 

―― 今の話を、ルールっぽく総括すると、何らかのイベントを北陸で主催する人がスポンサー(協賛)を募りたいと思ったら、自分たちのイベントが、アプローチする企業なり組織なり自治体にとって、どのような価値を持つのか、その部分を十分に考えた上で、候補先を選定し、コンタクトとった方がいいという話ですね。

 

渡辺:そう思います。

 

―― 具体的な事例を基に話を聞けるので分かりやすいですね。

 

渡辺さんの話の後には、なめりかわランタンまつり実行委員会の方にも契約締結までの話を聞かせてもらい、主催者側・協賛社側双方の話をドッキングしてコンテンツとしてまとめる予定です。

 

引き続き、よろしくお願いします。

 

なめりかわランタンまつり実行委員の方々

 

そろそろ、頂いた約束の時間の終わりが迫ってきましたので最後に、当日の話をさせてください。

 

ベトナム航空もお祭りでブースを出すのですよね?

 

渡辺:はい。パターゴルフをやって景品として、ぬいぐるみなどをプレゼントできればと思います。

 

―― パターゴルフですか。ベトナムや祭り、航空会社にそんなに関係ないような印象もありますが。

 

渡辺:いろいろ考えた末のアイデアなのです(笑)

 

ゴルフボールにもベトナム航空のロゴが入っている。パターゴルフマットは支配人の愛用品

 

プラスして当日は、ベトナム航空のCAが着用するアオザイ風の制服を着たブーススタッフにもお手伝いいただければと思います。

 

―― それなら、ちょっとベトナム感が出ますね。

 

渡辺:そこで坂本さん、そちらの方で、このブースをお手伝いいただけるボランティアの方、どなたかご紹介いただけませんか?

 

なかなか、現地で募集をしようと思っても、何のコネクションも私たちはありませんので。

 

―― 集まるかどうかは分かりませんが、HOKUROKUのSNS(会員制交流サイト)で募集しています。

 

 

 

読者会員への呼び掛けや、個人的なコネクションにも頼りつつ。

 

プラスして私も当日、時間を見付けてお邪魔しますね。このコンテンツに使う写真も撮影したいですし。

 

渡辺さんの写真も撮影させてもらいたいのでぜひ、現地で再会しましょう。

 

渡辺:ぜひぜひ。よろしくお願いします。

協賛者側の話まとめ

・協賛側には、スポンサードする意義が大事

 

・直接的にはすぐ、メリットは出なくても、巡り巡っていい影響が期待できるなら協賛する意義になる

 

・目に見えるメリット・目に見えないメリットを振り返る

 

・協賛を依頼してくる相手の大小はそれほど重要でない。協賛として出ていく価値を試算し、意思決定する

※編集部のコメント:HOKUROKUプロデューサーの私・明石の本業はまちづくり・場づくりで、その仕事の1つに「スポンサーを探す」があります。

 

この記事で、ベトナム航空側の目線でスポンサードまでの経緯を紹介していますが、学ぶべきことがたくさんありました。とってもいい記事になったという自負があります。

 

大きなことを成し遂げるには多くの人の協力が必要なことは当然です。

 

私の関わる業界では「知恵か、汗か、金か」みたいな話がよく出てきますが、この意味するところは、それらのどこに自分なら貢献できるかの選択肢です。

 

知恵があってもお金がない、これは恥ずかしいことでも何でもありません。逆に、お金があっても知恵が足りない人も居るのです。

 

どちらもなければ汗をかけば良い。そういう観点から、お金を出す側の立場が上、みたいな意識は持たない方がいいと思いますし、そうした認識が社会で広がってほしいと思います。

 

やりたいことの費用を身内だけで出し合ったり金融機関から借りたりするだけなら大変です!)

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