北陸がもっと好きになる。あの人の「本と映画と漫画」の話。

2020.05.31

第1回

自分の青臭さに恥ずかしくなる。

富山地方鉄道笹津線。撮影:柴佳安。

今よりも若かったころの思い出が地元の人であれば北陸にあるはずです。

 

幼い日の記憶を、思春期の息苦しい感情を、本や映画や漫画とともに思い起こしてみませんか? 時にはとても苦々しい、逃げ出したい作業になるかもしれませんが。

 

北陸がもっと好きになる本や映画や漫画を紹介してくれる人たちとして、金沢にある〈[g]ift〉のマネジャー・竹浪杏里さん、英語講師の畠山泉さん、建築士にして合同会社f5の代表・金木由美子さん、コピーライターでもあり〈里山のオーベルジュ 薪の音〉のスタッフでもある北島和博さん、〈喜代多旅館〉の3代目おかみ・濱井憲子さんがまず登場します。

 

自分の青臭さに恥ずかしくなる、幼いころを懐かしく思い出せる作品群をまとめてみました。

「季節とともにめぐる人の営みと恋愛模様。読むときっと大切な人との時間がいとおしくなる。」竹浪杏里(〈[g]ift〉マネジャー)

小川糸〈喋々喃々〉(ポプラ社)

「毎週の本屋さん通いで表紙に一目ぼれしました。

 

アンティーク着物ショップを営む主人公の栞の恋愛小説ですが、読むと自分の暮らしも大切にしたくなる作品です。

 

栞の地元は北陸です。アンティークの着物屋さんがあったり、古民家カフェがあったりと、私の住む金沢も昔からの物が暮らしの中になじむまちです。作中には金沢の本屋さんの名前も登場していて栞の住むまちと金沢が重なります。

 

北陸の山奥で自給自足生活を試みる父親を訪ねるため、妹と2人で夜行バスに乗るシーンが作中にはあります。

 

子どものころのお出掛けにわくわくする気持ちや懐かしさを姉妹2人の道中が思い起こさせてくれます。夜行バスに乗って出掛けるのもいいなと次の旅先を考えたくなります。

 

父親の住む山奥も白山や鳥越をイメージしたのかなと妄想が膨らんじゃいますね。

 

暮らしの中の1つ1つのことをいとおしむ気持ちや、大人になってから始まる恋の淡い気持ち、読むと自分や大切な人との時間がさらにいとおしくなる、そんな作品です。」

こんなお話。
“東京・谷中でアンティークきもの店を営む栞の、恋と家族の物語。下町の季節やおいしいものの描写を交えながら丁寧に描きます。”(ポプラ社のホームページより引用)

教えてくれた人。

 

竹浪杏里さん。
小説、エッセイ、雑誌に漫画、時間があれば活字を追うか雑貨を愛でている、北陸の魅力ある品を扱うショップ・[g]iftのマネジャー。

作品名:喋々喃々
著者:小川糸
出版社:ポプラ社
発売年:2009年(平成21年)2月
定価:本体1,500円

「あなたがなりたかったあなたに、あなたは今なれていますか?」畠山泉(英語講師)

J.D.サリンジャー著・村上春樹訳〈キャッチャー・イン・ザ・ライ〉(白水社)

「この作品はもちろん北陸を題材にした小説ではありません。しかしこの本を読むと故郷の福井を思い出します。

 

主人公は退学を何度も食らう劣等生。にもかかわらず悪いのは彼の周囲の人間や環境のせいにしている、いわゆる「中2病」の少年です。

 

自分が学生時代のころの故郷・福井は、どうしようもない田舎でした。何かやりたくても何もさせてもらえない土地的な閉塞(へいそく)感があり、福井での学生時代や留学時に読んだ時には主人公に対する共感しかありませんでした。

 

都会に出て働き、出産・育児を経験してから読んだ時、自分の青臭さに恥ずかしくなり、故郷の良さや故郷の人間の温かさを感じて、青春時代を懐かしく思えるようになりました。

 

大きな感動に包まれるような作品ではありません。しかし福井での学生時代を思い出し胸の奥が少しチクッと痛む作品です。」

こんなお話。
“J.D.サリンジャーの不朽の青春文学『ライ麦畑でつかまえて』が、村上春樹の新しい訳を得て、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』として生まれ変わりました。ホールデン・コールフィールドが永遠に16歳でありつづけるのと同じように、この小説はあなたの中に、いつまでも留まることでしょう。雪が降るように、風がそよぐように、川が流れるように、ホールデン・コールフィールドは魂のひとつのありかとなって、時代を超え、世代を超え、この世界に存在しているのです。”(白水社のホームページより引用)

教えてくれた人。

10歳の息子さんが描いた畠山さんの似顔絵。

 

畠山泉さん。
中3・中1・小5の3児の母。学生時代アメリカに6年間留学し、その後帰国。東京で働いていたものの、人生の豊かさを求めて北陸に戻ってくる。

作品名:キャッチャー・イン・ザ・ライ
著者:J.D.サリンジャー
訳者:村上春樹
出版社:白水社
発売年:2006年(平成18年)4月
定価:本体880円

「社会の底辺でもがく若者の純愛物語。涙腺崩壊ハンカチ必須!」金木由美子(合同会社f5・代表)

講談社の許諾を得て掲載。

後藤ゆきお原作・牧野和子作画〈新宿悲歌 しあわせしんきろう〉(講談社)

「『しんきろう』とあるように主人公のチンピラくんの出身は富山です。

時代を感じるものが作風にはありますね。当時はやった〈ハイティーン・ブギ〉と同じ作者のようで、そのころ高校生くらいだった方は覚えてるかも。

 

今さら感もあるかなと思いましたが、障がいのある貧困女子と貧困に付け込んで搾取する側の存在という構図が80年代から一向に改善していないどころか悪化しているんじゃないかと考えさせられました。

 

これを読んで当時は泣きましたね。切ない純愛モノです。」

こんなお話。
“家出少女の雪子に声を掛けたのは職業「すけこまし」のしげる。盲目の雪子は施設で育ち辛い経験もしてきたが純粋な心を持っている。そんな雪子に心惹かれていくしげる。果たして二人の恋の行方は…。”(紀伊国屋書店ホームページより引用)

教えてくれた人。

撮影:柴佳安。

金木由美子さん。
think.DIY CAFE〉というブックカフェをやっていました。障がい者グループホームと訪問・居宅介護の事業所を現在は立ち上げ、地域で障がいのある方たちが普通に暮らしていく場をつくっていこうと思っています。いろんな人が立ち寄れるサードプレイスとしてのカフェを現在工事中。

作品名:新宿悲歌 しあわせしんきろう
原作:後藤ゆきお
作画:牧野和子
出版社:講談社
発売年:1977年(昭和52年)9月
定価:本体400円

「行きたくなる南砺、会いたくなる城端。」北島和博(〈里山のオーベルジュ 薪の音〉スタッフ)

©2008 true tears製作委員会。

西村純二監督〈true tears〉(富山テレビ他)

「私の故郷である富山県南砺市のアニメーション制作会社P.A.Worksさんの代表作です。

 

切なさもにじむ恋愛ストーリーとしての魅力だけでなく、背景のあちらこちらに南砺市城端の背景がちりばめられているため、実際に訪れて城端の地を踏みしめたくなる内容かと思います。

 

聖地巡礼と称して全国各地からファンが城端に訪れています。作品登場の主要キャラクターを演じた声優さんもちょくちょく訪れてくれています。

 

城端駅内に前職で勤務していた時にはばったり声優さんと出くわしました。作品を通して演者−ファンの距離も近く交流が今も盛んに行われています。」

こんなお話。
“造り酒屋のひとり息子である仲上眞一郎。絵本作家に憧れる彼は、ある夜、天使の絵を描いていた。絵を描くことに没頭する彼の脳裏には、いつしか天使の鮮明なイメージが浮かぶ。その天使はふわりとした巻き毛の、あどけない少女だった。”(true tears公式サイトより引用)

教えてくれた人。

 

北島和博さん。
富山県南砺市(旧福光町)で生まれ育つ。大学入学を機に首都圏へ発ち十数年生活するも、北陸新幹線開通10日前に「北陸のためになんかできんかいな」と帰郷してきた(コピー)ライターの端くれ。現在は里山のオーベルジュ 薪の音スタッフ。

作品名:true tears
原作:La’cryma
監督:西村純二
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:true tears製作委員会
放送:2008年(平成20年)

「画面の隅々まで宿る生命力。自然とは何かを受け入れて共に生きていく。」濱井憲子(〈喜代多旅館〉3代目おかみ)

おおかみこどもの雨と雪〉DVD&Blu-ray発売中。 発売元:バップ©2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会。

細田守監督〈おおかみこどもの雨と雪〉(東宝)

「公開されてから数年は『舞台を見に来ました』という若い旅館のお客さまが何組もいらっしゃいました。

 

自分の親の出身地は両親とも富山県の上市町で、親戚も多く縁が深い土地です。

 

幼いころからなじみがあり、大好きな場所なのですが、まちも田畑も近代的な区分けすらされていないところが多く(区分けが小さくて曲がっているとか機械の入りにくい田畑とか)全体的に近代化から取り残された場所のイメージがありました。

 

なのでこの映画を見て非常に新鮮だったというか、自分の物差し以外にも物差しはあるのだと気づかされました。

 

映画のストーリーとか主要キャラよりずっと背景を見ていた珍しい映画です。」

こんなお話。
“大学生の花(宮崎あおい)は、彼(大沢たかお)と出会ってすぐに恋に落ちた。やがて彼が人間の姿で暮らす“おおかみおとこ”だと知ることになったが、花の気持ちが変わることはなかった。”(東宝のホームページより引用)

教えてくれた人。

撮影:山本哲朗。

濱井憲子さん。
富山市生まれ。富山県庁職員を経て家業の喜代多旅館の3代目おかみになる。

作品名:おおかみこどもの雨と雪
声の出演:宮崎あおい、大沢たかお他
監督・脚本・原作:細田守
脚本:奥寺佐渡子
製作:「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
配給:東宝

(編集長のコメント:北陸の「美しい言葉と昔話の世界」を楽しめる本や映画や漫画の話に次回は続きます。)

 

※クレジットが記載されていない書影についてはデータベース登録済みの書影を使っています。

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