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北陸(福井と富山)は「持ち家率」がどうして高いの?
(ここは、北陸にある、とある動物園です。たまたま飼育場所が隣り合わせのヒョウとカバが話している、そんな設定です。)
小さいときからこうだからもう慣れたよぉ。
でも、自分らしい家って憧れるなぁ。自分で好きな柔らかさの土を決められるんだもんねぇ。動物園の沼はちょっと柔らかすぎるんだよねぇ。
確かにな。人間は立派な家で暮らしているのに、動物園に居るわれわれは、大自然とほど遠い環境に押し込められている。
しかも、皮肉な話ながら、われわれの居る北陸、特に富山と福井は、日本でもトップクラスの持ち家率を誇る地域だ。
へぇ。そうなんだぁ。なんで、富山と福井の人は自分の家を持っている率が高いんだろう。
より正確に言うと北陸を含む、本州北部の日本海側の県は、ほぼ例外なく持ち家率が高い。
石川だけはちょっと例外的な存在だが、豪雪地帯の気候・風土・生活習慣にプラスして、各地域に固有の事情が重なり、持ち家率の高さが決まっていると考えられる。
例えば、富山県の持ち家率の高さには、どんな事情があるんだろう?
かつて、丸高木材株式会社(富山県射水市)の片境さんと、大和ハウスの芝草さんに、この件について話を聞く機会があった。
どうやって聞いたのぉ?? また、抜け出したの?
ああ。閉園後に動物園を抜け出した。
本当は、動物園の塀なんて簡単に飛び越えられるんだ。普段は人間が騒いで面倒くさいから飛び越えられないフリをしているだけだ。
大和ハウスはもちろんだけれど、丸高木材も聞いた覚えがある。五箇山の合掌造りに似た骨太組の家をつくる、創業が大正3年の会社だよね。
謎に偏ったお前の知識には時々驚かされる……。
まあ、いい。その片境さんも芝草さんも同じ意見として、比較的土地が富山は余っていて地価も安いから、持ち家率も高くなるのではないかと教えてくれた。
富山に限らず、秋田・山形・新潟・福井など、本州の日本海沿岸エリアは太平洋側の大都市圏に比べて、どこも地価(公示地価平均)が安い傾向にある。
現に、日本海側で例外的に持ち家率の高くない石川県は、全国的に見ても地価(公示地価平均)が高額なグループに入っている。
国土交通省地価公示・都道府県地価調査が情報源だ。
なるほどぉ。土地の安さが関係しているのかぁ。それからそれから?
共働き世帯が多く収入が安定しているからマイホームを建てられる人が多いという事情も考えられるそうだ。
当たり前だが、マイホームを人間界で建てるためにはすごくお金が掛かる。
5年に1度総務省が公表する「就業構造基本調査(平成29年度版)」を見ても、共働き率の高い県、福井(1位)山形(2位)富山(3位)がトップ3だ。
いずれも、持ち家率の高さが全国トップクラスの自治体だ。
なるほどぉ……。
実は、ある仮説を基に、アンケートをとって他の理由も考察してみた。
アンケート? どうやって?
飼育員に気づかれない時間帯を見計らって、おりの外にアンケート用紙と鉛筆を置いておいたんだ。デートで動物園に来る大学生をターゲットにした。
何を聞いたの?
富山県出身の大学生に、実家が一軒家かどうか、両親は共働きかどうかを聞くと、次のような結果になった。
富山県出身の大学生45人のうち、86.7%が一軒家で13.3%が賃貸と答えた。
さすが持ち家率の高い富山県だね!9割近くが一軒家と回答している。
続いて両親が、共働きであるかについての結果が上の図だ。この質問には44人が答えてくれた。
共働きと答えた人が7割だねぇ。やっぱり富山県は共働きの夫婦が多いんだねぇ。
本題はここからだ。同じ学生たちに、将来家を建てたいか(自分の家を持ちたいか)どうかを聞いた。その結果が次のグラフだ。
9割近くの人が将来家を建てたいと答えているねぇ。
回答者は、人間の大学生だ。将来のイメージがはっきりとしている年齢ではない。
それでも、ほとんどの学生が家を建てたい(自分の家を持ちたい)と思っている。
しかも、気付いたか? 回答数が少ないので偶然かもしれないが、一軒家(持ち家)で育った大学生と賃貸で育った大学生の割合は、将来家を建てたいと考える大学生と建てたいと思わない大学生の割合に、ぴったりと一致する。
持ち家で育った子どもは、やはり自分でも持ち家を好む傾向にあるのかもしれない。
なら、これからも、本州の日本海側の県で、持ち家率の高い傾向は続くのかなぁ??
それは分からない。ただ、新設住宅着工戸数は減っていくと考えられている。
少子高齢社会で人口減の時代なので、新築の需要はどんどん小さくなっているらしい。
丸高木材の片境さんによると、とても丈夫な家が最近は多く、すでにある家を建て直す必要もあまりないみたいなんだ。
子どもが大人になって親と同居するにしても建て直しではなくリフォームが主流になる可能性もあるみたいだ。
家を新しく建てる人が居たとしても、子どもの少ない核家族で住むとなれば、必要な家はどんどん小さくなっていく。
へえ、そうなんだね~。また1つ賢くなれた。ありがとう~。
でも、なんだか疲れてきちゃったな。水の中に戻っていい?
やれやれ。好きにするがいい。
ただ、お礼を言わなければいけない相手は、丸高木材の片境さん、ダイワハウスの芝草さんであり、アンケートに快く答えてくれた大学生たちだ。
また、各種のデータを集め、必要に応じて自由に観覧できる仕組みを国民に(動物に)広く用意してくれる総務省統計局にも感謝しなければいけない。
退屈すぎる毎日も、なんとかおかげで生きられているのだから。
※ヒョウとカバの設定はフィクションです。しかし、持ち家に関しては取材に基づいた情報を掲載しています。
文:高野希介
イラスト:ノグチマリコ
編集:坂本正敬・大坪史弥
編集協力:明石博之・武井靖・清水菜生
お前はまた水の中に居たのか。飼育員がつくった沼の居心地などたかが知れているだろうに。